スピーチ

 

外国のお客さんには着物がうけると思って、妻や娘たちは和服。

 

「次、お父さんのスピーチなんで、スタンバイお願いします。」

進行係の女性が僕に言った。

「これから新郎のお父様より、皆さまにお礼のスピーチがございます。」

司会者の女性が、最初に日本語で、次に英語でアナウンス。僕はマイクを受け取り、新郎新婦の右側に立った。そして、まずは、英語で話し始めた。原稿には大きな赤い字で「ゆっくり!」と書いてある。

「今日は、本当に国際的なゲストをお迎えしています。ここがどこか信じられないくらい。シンガポールから、ヨーロッパから、ドバイから、カナダから、オーストラリアから・・・遠い場所から、貴重な時間とお金も使って来てくれる、そんな良い友達を沢山持って、ゾーイとワタルは本当に幸せな人たちだと思います。日本へようこそ!金沢へようこそ!」

ここで間。一度目の拍手をもらっておく。できるだけ、前にいる人々とアイコンタクトを取りながら、僕は続ける。

「ゾーイのご両親のハンさんとエレンさんに、数週間前、中国で初めてお会いしたとき、『これから、私たちは一つの家族だ』とハンさんがおっしゃいました。私はその言葉に深い感銘を受けました。ヨーロッパでの『結婚』は、個人と個人の契約のような意味合いが強いですが、アジアの国々では、同時に家族と家族の新しい結びつきでもあるんです。こんな可愛い、心根の優しいゾーイを、三番目の娘として、家族の一員に迎え入れることはとても嬉しいことです。同時に、ハンさんご一家と、今後家族としてお付き合いできることは、光栄でもあり、大きな喜びでもあります。」

ここで二回目の拍手。僕は視線をゾーイとワタルに向ける。

「ゾーイ、ワタル、結婚おめでとう。ふたりが素敵な結婚生活を送ることを、父親として願ってやみません。結婚は、素晴らしいことですが、私の経験から言って、いつも楽しいことばかりではありません。不愉快な出来事や、辛い時も必ずあると思います。そんな不愉快なこと、辛い時間を、ふたりで乗り越えて、素晴らしい家庭を作っていくことを祈っています。頑張ってね、ゾーイ、ワタル。

皆さま、本日はおいでいただきまして、本当に有難うございます。」

最後にまたまた拍手をもらう。しかし、ここで終わりではないのだ。

「今申しましたことを、日本語で繰り返します。」

そう言って、僕は同じことを日本語で言った。

「日本語って、母国語だけに楽なんだよな。」

そう思いながら。

 実はこのスピーチ、八月、中国から帰ってからすぐに、最初の原稿を作っていた。初めに妻に聞いてもらい、前日、娘たちにも聞いてもらい、喋り方や内容を直した。その末のバージョンだった。ともかく、ひとつ「大役」が終わって、僕はホッとした。

 

と、思っていたら、海外のお客さんの中にも、和服の人が結構沢山いた。

 

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