お犬様の海岸

 

何故か、浜に居る人は、皆、犬を連れている。

 

日曜日の午後ということで、結構沢山の人がブロード・ヘイヴンの砂浜を散歩している。犬を連れている人が多い。

「待てよ、犬を連れていないのは・・・」

と、辺りを見回す。何と、犬を連れていないのは、僕たちの家族だけだった。

「ここは犬を連れてこなければいけない場所かも。」

と冗談を言う。

「犬を連れて入っちゃいけない砂浜」というのはよく聞くけど、「犬を連れないと入っちゃいけない砂浜」ってものあるんだろうか。

曇り空だが、気温が十五度くらいあり、風もないので、暖かく感じる。左側にある岬を一度登り、坂を下りて、今度はリトル・ヘイヴンの村に行く。そこには海に突き出した展望台があった。そこの石のベンチに座って海を見る。両側に海岸が広がり、自分たちが湾の奥にいることが分かる。沖に一隻の大きな貨物船が見える。動かないので、停泊しているのだろう。その船は、僕たちが帰るまで、ずっとそこに泊まっていた。

波も穏やかで、気温さえ高ければ、泳げそうである。

「あっ、今回、水着持ってくるの忘れた。」

とミドリが言う。彼女は、毎週八キロ泳ぐ、スイミングフリーク。どこでも泳ぐ人で、前回、五月にコーンウォールに行ったときも、冷たい海で、アザラシと一緒に泳いでいた。

「もうこの気温じゃ、いくらミドリでも泳ぐのは無理じゃない。」

そう言いながら、展望台から、村へ歩き始めた。辺りはボチボチと暗くなり始めている。村の前小さな湾に、何かカラフルなものが浮かんでいる。よく見ると、三十人くらいの人が、海で泳いでいるのだ。ミドリは一緒に泳ぎたそう。浜まで行ってみる。泳いでいる人は、六十歳以上の女性ばかり。

「寒くないんですか?」

上がって来た人に聞いてみる。

「ちょっと寒いわ。でも気持ちが良い。」

滞在中、夕飯は、僕と妻が作った。貸別荘なので、料理は自分たちで作らなければならない。外に食べに行くことも可能なのだが、小さな村なので、パブが一軒、レストランが二、三軒というところ。メニューに選択の余地も余りないし、四人で食べるとそれなりに金もかかる。リトル・ヘイヴンに店はなく、ブロード・ヘイヴンに小さなスーパーが一軒あるだけ。それは分かっていたので、僕たちは、食材、調味料などを持ち込んでいた。それだけで、往路は車のトランクが結構いっぱい。まあ、僕は料理が苦にならない人だし、休暇中は時間もふんだんにあるので、毎日せっせと夕食作りに励んだ。第一目のメニューは、妻の作った、「鶏の唐揚コチジャン和え」、僕の作った「キムチ鍋風スープ」。韓国風。

 

リトル・ヘイヴンの村と浜。僕たちの貸別荘は岬の反対側の湾を見下ろす高台にあった。

 

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