国の中の外国

 

スーパーの棚の表示。ウェールズ語が上に、大きく書かれている。

 

サービスエリアが近付くと、「Service」下に「Gwasanaethau」と書かれている。

「あれ、どない読むねん。」

助手席の妻に言う。発音不能の文字列である。後でグーグル翻訳で発音を確かめると、「グワサノイサ」と言っているように聞こえた。

十月十七日から六日間、ウェールズで休暇を過ごすことになった。「ウェールズ地方」なんて書かれることもあるが、それは間違い。ウェールズは、イングランド、スコットランド、北アイルランドと共に、「連合王国」を構成している、れっきとした「国」なのである。教育制度、司法制度等もイングランドとは別で、新型コロナに対する規制処置なんかも、イングランドとは一線を画している。サッカーやラグビーのワールドカップには、独自のチームを派遣。そして、何より、ウェールズは、独自の言語を持っている。

 朝、ハートフォードシャーを車で出発、僕と妻、二人の娘は、高速道路四号線をひたすら西に向かって走る。ブリストルからしばらく行くと、海を渡る橋があり。それを越えるとウェールズだ。その橋、その名も「プリンス・オブ・ウェールズ・ブリッジ」。橋を渡ると、道路わきの表示が二か国語併記になる。そこで、先ほど書いた、発音不能の文字列に出くわしたわけだ。ウェールズ語はケルト語の系列、ゲルマン語系の英語とは、別グループで、語彙は全く違う。ヨーロッパの言語なら、少しは想像のつく僕にも、皆目分からない言葉。二〇一一年の調査では、ウェールズに住む三歳以上の住民の約五分の一が、ウェールズ語を理解するとのこと。と言うことは、ウェールズに住んでいる人でも、八十パーセントが話せない言語ということなる。何となく、滅びゆく言語という気がして、寂しい。でも、別の言葉が使われている土地に行くのはいい。

「ちょっとした外国旅行気分やね。」

と隣の妻に言う。

ウェールズは、一五六三年に連合王国に「参加」している。まあ、力関係から言って、イングランドに「吸収合併」されたと言ってもいいと思うが。これは、スコットランドの一七〇七年、アイルランド一八〇一に比べて、はるかに早い時期。話は変わるが、「Ted Lasso」というテレビのシリーズがある。アメリカンフットボールのコーチが、英国のサッカー、プレミアリーグの監督を引き受ける話。彼は、米国と英国のカルチャーギャップに驚きながら、チームを成功に導いていく。最初、プレミアリーグの選手が、外国人ばかりなので、驚くテッド。やっと、英国人らしい選手を見つけて、アシスタントに尋ねる。

「さすがに、やつはこの国の選手だろう?」

「いや、やつはウェールズだ。」

「いったい、この国には、いくつの国があるんだ!」

と叫ぶテッド。本当に、この、国の中にまた国があるシステム、知らない人間は戸惑うよね。

 

海辺の楽しみは、もちろんシーフード。ロブスターとカニみそが美味い。

 

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