どうして英国にはスキー選手がいないの?
疑問その九:「どうして英国にはスキー選手がいないの?」
「素朴な疑問」も残すところあと二つとなった。まず下の表を見ていただきたい。二〇一六年に行われたリオデジャネイロ五輪のメダル獲得数である。
英国は、米国に次いで二位に入っている。面積が日本より狭く、人口も日本の半分強ということを考えれば、驚異的なメダル獲得数である。しかし、これは夏季オリンピックの話。どなたか、英国のスキー選手が冬季オリンピックで活躍しているのをご覧になったことがあるだろうか。僕は思い出せない。夏季では強い英国も、冬季ではさっぱりなのである。ちなみに、二〇一四年のソチ冬季五輪でのメダル獲得数は四個、全体の十九位。もちろんスキーはゼロ。それは何故か。
最大の理由は英国には山がないことだと思う。英国にはスコットランドやウェールズの一部を除いて、なだらかな丘陵が続いているだけで、スキーができるような傾斜のある山がない。おまけに、緯度が日本よりはるかに上なのに、メキシコ湾流の影響で冬でも暖かく、雪が積もらない。山も雪もなければスキーは出来ないのである。
もうひとつの理由は、メダルを狙い易い競技に注力するという英国の合理主義であろう。競技人口の多い、ライバルの多い競技でメダルを取っても、競技人口の少ないマイナーな競技でメダルを取っても、一個のメダルには変わりはない。リオ五輪で取った六十七個のメダルの内訳を見てみると、自転車十二個、漕艇五個、体操七個、カヌー四個、陸上七個、馬術三個、ヨット三個、競泳六個、ボクシング三個、飛込三個、テコンドー三個、トライアスロン三個・・・と、結構マイナーで種目数が多い競技が多い。英国には「ナショナル・ロッテリー」という宝くじがあり、その収益がオリンピックの強化に使われるが、メダルの取れそうな競技に重点的に配分される。スキー選手の強化には使われていないようだ。
しかし、英国にも、スキーのジャンプの選手がいたのである。映画にもなった、「エディー・ザ・イーグル」こと、マイケル・エドワード選手だ。彼は、オリンピックに出ることを目指し、一番競技人口の少ないスキージャンプを選んだ。英国人のジャンプ選手は彼が第一号で、彼の跳んだ距離が、そのまま英国記録になった。彼の話を読んだことがある。スポンサーもない彼は、ホテルで皿洗いをしながら、ヒッチハイクで競技場に向かう。そして、終に念願が叶い、一九八八年のカルガリ五輪の英国代表選手に選ばれる。「危ないので参加させるな」という競技役員の意見を退けて、彼はオリンピックの晴れ舞台に立つ。腕をクルクルと回すフォームで「エディー・ザ・イーグル」(鷲のエディー)と呼ばれた彼の残した結果は・・・最下位であった。それも断トツの。
ラージヒル(昔の九十メートル級)で優勝したのはフィンランドのニッカネン選手、百十八メートルと百七メートルを飛んでの優勝であった。エディーは七十一メートルと六十七メートルを飛んだ。彼がいかに断トツで最下位だったかというと、彼の一つ前、つまりブービー賞のカナダのギルマン選手の記録が九十六メートルと八十六メートルであったから、分かろうというもの。しかし、悪びれることのないエディーは大会での人気者になった。
マイケル・エドワード選手とそのフォーム。