旅エッセーの師匠
熊本の有名人クマモン。熊本駅には彼の駅長室もあった。
十七時五十四分、久留米に停車。
新鳥栖を出てから三分後、まともにスピードも上げないうちに久留米に停車。どちらかにしてほしい気がする。ここまで来ると、さすがにちょっと疲れて来て、早く着いてほしい。
こうして旅のエッセーを書いていて上で、師として仰いでいる人がふたりいる。ひとりは宮脇俊三さん、もうひとりは椎名誠さんである。宮脇さんは、当時の国鉄の全線走破を果たし、最長片道切符の旅を果たし、それらの記録をエッセーにされている。椎名さんは、地球上あちこち、アマゾンからシベリアまで、訪れた経験をエッセーにされている。お二人の素晴らしいところは、それらの記録を完全に自分の中で消化し、自分の「心の中の体験」として、自分の「内面の描写」として、書いておられる点である。おふたりの旅のエッセーを読むと、表面的な観光案内的な描写がない。全てを自分自身のフィルターを透して見つめておられる。私も、そんなエッセーを書いてみたいと思う。
十八時十五分、熊本に停車。
「クマモン」の街である。そして、昨年地震で被害を受けた場所。鉄筋コンクリート造りであろうが、熊本城の存在感は日本一だと思う。まだ立入禁止と聞いている。熊本地震の後、まだ新幹線は速度を落として特別ダイヤで運転をしていると社内放送があった。確かに、熊本を出てから、スピードがガタリと落ちた。
「車体が傾きますのでご注意ください。」
というアナウンスが入る。どの鉄道も、カーブでスピードをそれほど緩めないで通過できるよう、路盤が傾斜を持って作られている。そこを徐行すると、車両が傾きをもろに感じて、乗り心地が悪いということらしい。
十八時五十五分、川内に停車。
あと、一駅で終着の鹿児島中央である。今日「センダイ」という名前の駅に停まるのは二度目。熊本県から鹿児島県に入り、列車のスピードはまた元に戻ったようだ。
しかし、鉄道というのは、普段何気なく乗っているが、膨大な技術とノウハウが結集されたもの、人間の英知の集大成であると、今日一日列車に乗り続けて改めて感じた。まずインフラ、ハードウェアがすごい。ビルを建てるだけでも結構時間がかかるのに、トンネル、橋、軌道を、何百キロにも渡って造っていくのである。次にテクノロジー、その上を三百キロで走り続けられる列車を作る技術もすごい。そして、何よりも、それらを秒刻みで運用するソフトウェアがすごい。もちろん、一朝一夕に出来上がったものではなく、何十年もの間に蓄積されたものだとは思うが。
「飛行機もすごいが、鉄道はそれ以上にすごい!」
いよいよ次は終着駅の鹿児島中央。達成感がジワジワと広がってくる。