究極の娯楽大作
魯粛、呉の参謀。調停能力に秀でた天才的外交官。霍青(フォ・チン)が演じる。
英語で、町のことを「タウン(Town)」と言う。ドイツ語でそれに当たる言葉は「ツァウン(Zaun)」である。ドイツ語で「ツァウン」は、城壁、塀という意味。つまり、昔「町」とは、塀で囲まれた場所のことだったのだ。今回、「三国」を見ていて、昔の街は城壁に囲まれていたということが良く分かった。
「あの町を攻撃するぞ!」
という決定がなされる。次に映るシーンは、厚くて高い城壁に囲まれた町の城門である。つまり、当時の「町」とは、城壁に囲まれた区域のことを言い、町を占領するとは、その城壁を打ち破り、内部に突入することだったのだ。
ということで、町を占領するためには、城壁を破らなければならない。そこで、色々なテクノロジーが登場する。まず投石器、テコを利用して、大きな石を数十メートル投げ飛ばす。その石を布で覆い、油をかけ、火を点け、「焼夷弾」みたいにして、バンバン城壁の内部に打ち込む。また、先の尖った木を太い木を何本も束ねて、それを木製の城門にぶつけて、城門の破壊を試みる。当時のハイテク兵器の威力が、遺憾なく発揮される。また「水軍」の船も、単なるボートではない。日本の千石船にも似た、屋根や船室のある大きな船である。
「ええっ、二千年前に、もうこんなハイテクやったの?」
と思わず疑いの目を向けてしまう。何せ、当時、日本は弥生時代、英国は狩猟民が動物を追いかけまわしていた時代。このドラマを制作する上で、時代考証はかなり厳密になされていると思う。本当に、当時の文明の地域差というものは、とてつもなく大きかったということが分かる。
当時の、挨拶、食事、酒盛りなどの日常的なシーンも面白かった。もちろん、皇帝、王、武将などを中心に話が進むので、庶民の生活は殆ど描かれていない。挨拶は、両手を握りしめ、それを目の前でくっつけることにより、相手に敬意をしめす。また、正式の食事には、必ず「鶏の丸焼き」が添えられている。つまり、当時の人にとって、「鶏を丸ごと食べる」ということが、上流階級にしかできない贅沢であったことが伺える。酒は、三本の足の付いた盃で飲む。飲む際は、口元を隠し、飲んでいる顔を相手に見せない。
ドラマを見るだけでなく、並行して色々調べたので、ここ二か月ほどで、三国志について、かなり詳しくなった。調べているうちに色々なことが分かってきた。日本でも、三国志の登場人物に対して、韓国のKポップグループ「BTS」にも劣らない熱狂的なファンがいて、一人一人の登場人物に対して、「ファンクラブ」まであるという。「曹操ファンクラブ」とか、「ゴーゴー諸葛亮の会」とか、「関羽の足跡を辿る会」とか、ありそう。この物語、何が楽しいかというと、一人一人の登場人物の行動、心理が、端役に至るまで、実に丁寧に描き込まれていることだと思う。この辺り、ちょっとドストエフスキー的でもある。ともかく、人類が残した娯楽大作としては、三本の指に入るものだとの確信は得た。
趙雲(聶遠・ニエ・ユエン)。劉備と諸葛亮を最後まで守る。強いが自分を過信しない。僕が個人的に一番好感を持った人物だった。