テスとの出会い
映画、「ダーバヴィル家のテス」テスの一シーン。
その僕を変えたのが「ダーバヴィル家のテス」の映画である。原作はトーマス・ハーディー。貧しい家に生まれたテスは恋人がありながら、奉公先の主人に強姦される。テスは結局その主人の妻となるが、最後は主人を刺し、恋人と一緒に逃亡をする。そして彼女はこのストーンヘンジまで来たときに、追っ手の警官隊に捕まるのである。
二〇〇八年放映の、テレビのミニシリーズ。テスを演じていたのは元ボンドガールのジェマ・アータートンという女優。
朝日に照らされたストーンヘンジで休むテスと恋人のエンジェル・クレア。その周囲から、黒いユニフォームの警官隊が徐々に近づいてくる。その光景は美しく、悲しいものであった。その時、僕はストーンヘンジを一度は自分の目で見てみようと思った。オーディオガイドでも、このハーディーの小説の一部が朗読されていた。
誰が何のために作ったかさっぱり分からないこのモニュメント、それゆえに、これまで数々の憶測、推測が行われてきた。中世ではアーサー王伝説と結び付けられ、現代ではUFOと結び付けられたりしている。つまり、UFOの着陸のための目標物だというのである。妙に納得のいく説明だったりして。巨大な石も、UFOなら簡単に運べたかも。
UFOと言えば、余談になるが、第二次世界大戦中、英国空軍のパイロットが未確認飛行物体を見たという正式な報告書が存在することが最近明らかになった。しかし、そのことは、当時のマスコミには載らなかった。ある人物がその報告書が「人心を撹乱する」ことを恐れて握りつぶすように指示したからだ。その人物とは、当時の英国首相、ウィンストン・チャーチルである。
辺りを見回す。三百六十度視界が開けている。近くに道路が走っている以外は、なだらかに波打つ草原が続くだけで、本当に何もない場所。羊が緑の海の中にクリーム色と黒の斑点となって見える。ヒールストーンの上には、カラスがちょこんと留まっている。
一周ではもったいなくて、石の周りを二回った後、一時ごろに巨石群を離れ、駐車場に向かう。オーディオガイドを返す。このオーディオガイド、携帯電話そっくりなのである。つまり、皆、「携帯電話をかけながら」という格好で、見学している。午前中、道路からこの光景を見たとき、
「ストーンヘンジが余りに素晴らしいので、皆が故郷の父ちゃん母ちゃんや友達に、携帯から電話して報告しるんだ。」
と僕は思ってしまった。
イングリッシュ・ヘリテージの管理はなかなか行き届いていて、ぬかるみやすい場所にはちゃんと橋がかけてあった。用意した長靴は結局使わないで済んだ。
「道路が近いのに、妙に静かな場所だと思いません?」
とノリコが言った。その通り、道路が近いのに、車の音は余り気にならず、風の音が聴こえた。
記念撮影、後でフェースブックに載せるのかな。