石との遭遇
こうやって石を運んだ(のではないか)という想像図。延べ百万人の人が関与したと予想される。
「わあ、あれですよ、あれ。」
「わあ、感激。」
ふたりで叫ぶ。ストーンヘンジが突然目の前に現れた。その唐突な現れ方はなかなか感動的。だだっ広い草原、周囲には何もないところに、突如として石がニョキニョキと突き立っているのが見え始める。
道路を挟んで反対側の駐車場に車を停め、僕だけ入場料を払い、道路の下のトンネルを潜っていく。入場料は六ポンド(約九百円)。「僕だけ」と言うのは、ノリコは「イングリッシュ・ヘリテージ」の会員であるので、入場料は要らないのである。
「イングリッシュ・ヘリテージ」とは、英国の歴史的な建造物、庭園などを管理している団体。個人的な所有が困難になった昔の貴族の屋敷など、歴史的な建物なども買い取り、管理、公開している。もちろん、政府の補助や大口の募金も受けているのであろうが。ノリコによると、年間五千円ほどの会費を払って会員になると、この団体が管理している場所には無料で入れるとのこと。一回の入場料を平均五百円としても、十回行けば元が取れるということになる。
「しかし、僕はとても十回は行かないだろうな。」
入り口で、携帯電話のような「オーディオガイド」を借りていよいよ巨石群に近付いていく。聞こえてくる説明によると、ここの場所に今の石が置かれたのは、今から五千年前から三千五百年くらい前にかけて、つまり、エジプトのピラミッドが作られたのと同じ頃とのことである。これらの石柱は一度に立てられたものではく、五千年くらい前に最初の土台が作られ、それから千五百年くらいかけて、徐々に完成されられたものであるという。
誰が何のために作ったのかは分からない。とにかく、高さ五メートルをゆうに越える巨石が、円形に立っているのは、シンプルで、それだけに説得力があり、見ている誰もが一種の感動を覚える。
今から二千年前、つまりキリストが生まれた頃、ローマ人が英国にやって来て、この巨石群を見つけた。そのときには、既にこの石の由来を知るものは誰もいなくなっていた。つまり、ローマ人は、
「一体、誰が何のためにこんなもんを作ったんやろね。」
「いや、それは誰にも分からんらしいっすよ。」
というノリコと僕と同じ会話を、二千年前にしていたことになる。
一番大きな石は、ブルーストーンという種類で、一体何トンの重さがあるのだろうか。ともかく、ブルーストーンはこの近くでは産さず、二百キロ以上はなれたウェールズから、ヨイショヨイショと運ばれたものだという。
「いかにして?」
またしても疑問。そして、それには誰も答えられない。
「もしもし、母ちゃん、オレ。」ちがいます、携帯ではありません。オーディオガイドです。