ラムカレー

 

チャンギー空港の温室にいた、美しい南国の蝶。空港で見られるとは思わなかった。

 

八時過ぎにサンキットが帰り、僕たちはシンガポール最後の食事に行くことになった。

「パパ、最後の夜、何食べたいの。」

と息子が聞いてくる。

「インド料理、って言ったら怒るかな。」

とおそるおそる聞いてみる。僕は何故か、外に出るとインド料理が食べたくなり、ベルギーでもフランスでも出張すると必ず一回はインド料理店を訪れる。

「いいよ。」

とあっさりオーケーが出る。ミキが

「僕の家の近くに美味しいインディアンがあるから、案内するよ。」

と言う。それで彼と一緒に四人でタクシーに乗る。

ミキは何と六ヶ国語を話すという。日本語も大変お上手。勤め人として働く傍ら、自分のビジネスもやっているという。息子の友達は皆、野心的というか、上昇志向が強いというか、自分でビジネスを始めるような若者が多い。

タクシーを降りたところでミキと分かれて、三人で彼のお勧めのインド料理店に入る。ラムカレー、オクラカレー、サフランで色と香りの付いたピラウライス、ナン、ビリアーニ(インドのチャーハン)を注文する。どれもと油を抑えたサラッとした味。インド人にはちょっと物足りない味かも知れないが、外国人にはちょうどいい。僕はラムが好き。カレーを頼むといつもラム入りを注文する。春先、牧場で母親の後をチョコチョコ歩いている子羊を見ていると可愛い。でも子羊は美味しい。

明日の朝は早いが、僕が昼寝をしている間に、妻が荷造りをやってくれたようだ。

翌朝、六時に起きて、息子に別れを告げ、六時四十分にタクシーでコンドを出発する。早朝で道はガラガラ、七時にはチャンギー空港に着いてしまった。チェックインを済ませ中に入る。チャンギー空港は、空港内の充実した設備が有名。楽しい場所だ。「バタフライ・ワールド」というコーナーがあった。そこは温室になっていて、いろいろな蝶が飼育されていた。

八時半に搭乗が始まり、定時の九時にシンガポール航空のエアバスA三八〇は出発した。眠ろうとするが、何せ先ほどまで眠っていたばかり、また眠るのは難しい。起きていると十三時間が長いこと。少し眠って目を覚ますと飛行機はまだアラル海の上を飛んでいた。また少しウトウトして気がつくとウクライナの上を飛んでいた。英国に近づく。ロンドンの気温は二十六度ということで、結構高い。英国人なら暑い暑いと騒ぐ気温だ。飛行機は、午後四時にヒースロー空港に着陸。頼んでいたタクシーで家に向かう。高速道路は混んでいる。

「今日は暑いですから、エアコンをつけましょうか。」

と運転手が聞く。

「いえ、窓を開けたまま走ってもらっていいですよ。」

運転手はちょっと不満そう。でも、ヨーロッパの涼しくて、乾燥した空気が肌に心地よい。

 

休暇もお終い。ロンドン行の飛行機が僕たちを待っている。

 

<了>

 

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