いつも泳いでいるふたり
ビキニは泳ぎにくいからと、ホリデーでも競泳用の水着を着ている妻。
五時半に、レンタカー屋のお兄さんが車を引き取りに来たので、鍵を渡す。部屋に戻ると、「カクテルパーティー」が今日六時半から図書室でありますという案内が入っていた。それで、妻と僕は図書館へ行った。本来ならプールサイドであるべき行事らしいが、この天気ではね。シャンペンを飲み、カナッペをつまみながら、他の泊り客と話をする。昨日写真を撮ってくれた、ミネアポリスから来た四人組の人々もいた。姉妹と、その甥御さんと姪御さんとのことだった。
「あなたたち、いつも泳いでるわね。」
と中年に姉妹のひとりに言われた。確かに、妻と僕は毎日、下手をすると朝夕とプールに行って、結構真剣に泳いでいる。妻が泳ぐのは単に好きだからなのだが、僕にはもうひとつ理由があった。肩の治療を受けたあと、フィジオセラピスト(療法士)から、リハビリのために、できるだけ肩を動かすことを勧められていた。それで水泳。最初は痛くて右手を前に持って来られなかったが、シンガポールに着いてから毎日泳ぐうちに、肩の関節の可動域が徐々に増えて、今ではほぼ普通に泳げるようになっていた。暖かい気候と水泳、これが肩に良かったらしい。痛みが薄らいで、またスポーツが出来るようになったのは、とっても嬉しい。
「今日はどちらへ行かれたんですか。」
と僕が姪御さんに聞くと。「ジェームス・ボンド島」へ行ったとのこと。
「へえ、そんな場所があるんですか。」
何でも、「〇〇七、黄金銃を持つ男」のロケが行われた島がプーケットにあるとのこと。後で調べたのだが、三代目ボンドのロジャー・ムーアが出演した映画が封切られたのは一九七四年。それから四十年以上経っている。何と言う息の長い観光地なんだろう。若い彼女は大学に在学中だという。彼女と話していると、だんだんと自分の英語が、アメリカン・イングリッシュになっていくのが分かる。すぐに相手の人に影響を受ける僕。
七時半にカクテルパーティーはお開きになる。雨は降っているし、車はないし、ホテルの電気自動車に乗せてもらい、また「波の音の聞こえるレストラン」へ行く。またまたヌードルを食べる。飲み物はココナッツ。正直、どんなジュースよりも、よく冷えたココナッツの汁は美味しいと思う。
プーケットを発つ日。六時半にボーイがスーツケースを取りに来る。その朝も雨。朝食とチェックアウトを済ませて玄関に出ると、タクシーが停まっており、スーツケースは既に積み込まれていた。七時にスーリンを出発し、道が空いていたので七時半過ぎにはもう空港に着いた。チェックインを済ませて、ターミナルビルの中に入る。あちこちに雨漏りがしており、バケツが置いてある。タイの方には失礼だが、いかにもこの国らしい光景。出発前の一時間でやることは、タイ・バーツを使い切ること。二万円分ほどタイの通貨に換えたが、ホテルやレンタカーの支払いはクレジットカーだし、食事やガソリンは安いし、まだかなりタイの金が余っている。シンガポール・ドルなら息子にプレゼントできるのだが。
ホテルの中でも、僕の一番お気に入りの場所。海の見える図書室。