めぞん一刻

 

ちょっとした別荘のようなプーケットの「ザ・スーリン」の部屋。

 

ベトナム料理から出て、近くの「めぞん一刻」という変な名前のカクテルバーへ行く。そこも息子のお勧め。「めぞん一刻」というと、僕などは懐かしい、一九七〇年代の高橋留美子の漫画を思い出す。若い美人の未亡人響子さんと、彼女の経営する下宿屋に寝起きする、あつかましい住人たちのお話。どうしてシンガポールに「めぞん一刻」があるの、と思ってバーテンダーのお兄さんに名前の由来を聞いてみる。

「オーナーがフランス人で、『メゾン』はフランス語で『家』、『一刻』は日本語で『短い間』。短い間でも自分の家のように寛いでもらおうという、オーナーの願いがこめられているのです。」

ということだった。

「ぬあるほど、そういうことだったのか。」

そこの店は、その日の体調、気分をバーテンダーに伝えれば、「お任せ」のカクテルを作ってくれる。僕はバーテンさんに何を言ったか忘れたが、証拠写真によると、コーヒーの味のした、結構コクのあるカクテルをいただいた。

隣の席に三人連れが座る。男性二人と女性一人。ドイツ語を話しているので、

「どちらからですか。」

とドイツ語で尋ねると、スイスからだという。カップルのふたりは休暇でこちらに来ている。よく喋るラースは、「アジアにはまってしまい、アジアを離れられなくなったなヨーロッパ人」の一人だった。それから、友人との夕食を終えて合流した息子も加わって、十一時過ぎまで、ドイツ語で盛り上がっていた。

「あなたって、ドイツ語を話してると本当に楽しそうね。」

帰りのタクシーの中で妻がそう言った。

 翌日、妻と僕は、タイのプーケットに向かうことになっていた。せっかくここまで来たのだし、どこか別のところへも行きたいよね。それに、余り息子の所にベタッと居候するのも迷惑だろうし。それで、僕たちは息子が働いている火曜日から金曜日までを、タイのリゾート地、プーケットで過ごすことにしていた。予約をしたのは妻。

 昼前にタクシーでコンドを発って、息子のオフィスに立ち寄り鍵を渡す。同じタクシーでそのままチャンギー空港まで行く。十三時十五分発の、エア・アジア機に乗る。往復一人当たり一万八千円という格安航空会社の格安チケット。アジアは飛行機が安いのがいいよね。シンガポール上空は晴れていけど、だんだんと雲が厚くなる。僕たちの乗ったエアバスA三二〇機は、厚い雲を突き抜け、激しく揺れながら、雨のプーケット空港に着陸。リゾートの島の空港ということで、ギリシアの島の空港のように小さくて、タラップを降りて濡れながら歩いていかねばならいのかと思ったら、結構大きな空港で、停まっている飛行機も大型のものが多いのに驚いた。次に驚いたことは、入国審査で、周囲の人間がほとんどロシア人だったこと。ロシア人に人気のある場所らしい。

 

シーズンオフということで人気のないホテルの中庭で。静かでいいね。

 

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