バクテー
栄養満点の朝ごはん、バクテー。本来は港湾労働者に力をつけさせるものだったという。
チョムチョム・ホーカーセンターからタクシーでまた息子のコンドに戻る。もう十一時近い。その時間、街でジョギングをしている人々を沢山見かけた。暑いシンガポールも、その頃になると、「暑くもなく寒くもなくちょうどいい感じ」って気温。
「シンガポールでは夜にジョギングをする人が多いんだね。」
しかし、よく見ると、皆胸にゼッケンを付けている。
「今日、何かレースがあったの。」
と息子に尋ねると、これからレースがあるという。「サンダウン・マラソン」つまり「太陽が沈んでからのマラソン」がその夜にあり、スタートが十一時半とのこと。まあ、メチャ蒸し暑いシンガポールで、四十二キロ走ろうとするとその時間しかないのだろう。そう言えば、ホノルルマラソンも随分早い時間にスタートするよね。
数年前、マレーシアのペナンで、友人のCさんの家に居候をしていた。(よく考えたら、僕ってどこでも居候をしている。)子供たちを幼稚園と学校に送り出したCさん夫婦が誘ってくれた。
「モト、朝御飯食べに行こうよ。」
「え〜、朝から外食なの?」
マレーシアでは朝から外食が自然で、そのための食堂も開いていた。僕はそのとき初めて「バクテー」(肉骨茶)を飲んだ、というより食べた。バクテーとは、豚のリブを煮込んだスープ、マレーシアでは朝御飯の定番メニューとのこと。朝食に味噌汁、汁物が必須の僕には、打ってつけの朝食。それに、スタミナが付きそう。
バクテーはお隣のシンガポールでも朝食の定番だった。二日目の朝、プールで泳いだ後、僕たち三人は、クラーク・キーの「バクテー専門店」に朝食を食べに行った。もちろんタクシーで。「タクシーで朝食を食べに行く」、何という贅沢な世界なんでしょ。道路に面したテーブルで、もちろんバクテーを注文。日曜日の朝十時過ぎ、店は賑わっている。間もなく、スープとごはんが運ばれてきた。スープをすすり、骨の周囲の肉を食べる。スープは白く濁ってコッテリした味。胡椒が効いている。マレーシアで食べたときは、スープは澄んでいて、もっとあっさりした味だった。ここのバクテーの味は、九州のトンコツスープにかなり近い。
「あれ、最近同じような味を食べたぞ。」
僕は、三日前にフランクフルトのラーメン屋「無垢」で食べたラーメンを思い出した。
その後、シンガポール川に沿って歩き、マーライオンを見て、ナショナルギャラリーの屋上に登る。マリーナ・ベイが一望出来る。高層ビルが立ち並ぶ下、公園では、クリケットの試合が行われていた。その後、息子の会社のオフィスに行く。日曜日の朝なので、もちろん誰も働いていない。息子は入退出用のカードを持っているので入れる。オフィスの窓から、湾の向こう岸にある巨大な下駄のような、「マリーナ・ベイ・サンズ」の建物が見えた。
「何と言う眺めの良いオフィス。」
もちろん、その分、お家賃もお高いのだろうが。とことんポッシュな会社だ。
オフィスからの眺望。このスーパー・ヴューで顧客を圧倒しようというのかな。