シンガポール教育事情

 

理系に進むべきか、文系に進むべきか、その進路に思い悩むエンゾー。

 

話は五日目に戻る。その夜はワタルが先に休み、僕と妻はゾーイとベランダで話していた。雨が降ったせいで、気温が二十五度くらいまで下がり、今晩はずいぶん過ごし易い。その日の話題は、「エンゾーの教育について」。まだ一歳の誕生日を過ぎたところだが、ゾーイは息子の教育について結構真剣にプランを練っている。どんな幼稚園に入れて、どんな学校に入れて、どんな大学に入れて・・・

ワタルとゾーイが今年の夏、英国に来た時、ケンブリッジに行った。

「将来、エンゾーをケンブリッジ大学に行かせるつもり。だから、今日は下見に行くの。」

とゾーイが言った。それはあながち冗談ではなかったようだ。

 ゾーイの話を聞くと、シンガポールの受験競争は、日本以上に激しいよう。大学進学率の高い公立の中学、高校が数校あるようだが、そこに入るための競争率が、ものすごく高いとのこと。単なる試験の点数だけでなく、課外活動への参加度、親の学校への貢献度なども加味されるという。そして、その競争は、幼稚園入学時からもう始まるという。

「受験地獄は、日本以上やねえ。」

と妻と顔を見合わせる。

 中国語を学ぶ中で、中国では受験競争がし烈だとは聞いていた。中国には「センター試験」に当たる「高考」(ガオカオ)があり、その成績で、大学が振り分けられる。長い間の「一人っ子政策」もあり、中国の親は、小さい時からその「高考」に向けて、子供の教育への投資を惜しまず、同時に子供を叱咤激励する。シンガポールでは、人口の八十パーセントが中国系。「子供の教育に金を掛ける」、その伝統はしっかり受け継がれているようだ。果たして、ゾーイの計画は、上手く行くかな。将来、僕はエンゾーの、ケンブリッジ大学卒業式に出席することが出来るのだろうか。

 さて、話はガラリと変わり、今度はトイレの話。披露宴で、北京のホテルに泊まったとき、ゾーイが

「ジャパニーズトイレットだ。」

と嬉しそうに言った。それは「和式トイレ」のことではなく、「ウォシュレット」のこと。最近、日本では用便の跡、水で洗うのが普及したことに驚く。ヨーロッパでは全然一般的ではない。ところが、東南アジアでは、用便の後水でお尻を洗うのはごく昔から常識なのだ。マレーシア、シンガポール、インドネシアなどでは、便器の横に、シャワーのようなものがついている。先がピストルのようになっており、引き金を引くと、勢いよく水が噴出される。これでお尻を洗うわけだが、これがなかなかの快感。

「わあ、気持ちいい!」

ところが、水圧が結構強いので、油断をすると辺りが水浸しになったり、ズボンやパンツが濡れてしまう。

 

便器の手前ホースとピストルのような噴射装置が見える。これがシンガポールのトイレ。(配管業者のカタログより)

 

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