色々あったけど

 

チャンギー空港にあった、「世界で一番高い人工の滝」。シンガポールらしい。

 

Day 1

妻と一緒に、ロンドン・ヒースロー空港を夕方に出発。三時間の飛行でヘルシンキに到着。そこで乗り換え。真夜中にヘルシンキを出発し、エコノミークラスで延々十三時間の空の旅。尻が痛い。シンガポールに到着したときには、さすがにホッとした。

「やっと着いた〜。」

シンガポールはもう夕方の六時である。

空港には息子のワタルが迎えに来てくれていた。これは意外。妻と二人でタクシーに乗るつもりだったのに。空港のターミナルの横に作られた「世界で一番高い人工の滝」なる物を見る。

「いかにもシンガポール人が好きそうなモンやねえ。」

と妻と二人で言う。シンガポールって、結構奇抜な建造物が多いのだ。三人でタクシーに乗ってワタル一家の住む界隈へ。ホテルで荷物を降ろし、チェックインを済ませる。前回はワタルのマンションに泊まったが、今回は、彼の家から歩いて五分ほどの「スヌーズホテル」(居眠りホテル)で眠ることになっていた。

ホテルの前のバス停で、ワタルの妻のゾーイと会って、バスで「カートン・ショッピングセンター」の二階にある寿司屋へ行く。シンガポールでの第一回目の食事は、何と寿司。これも予想外。ゾーイはマグロの「カマ」を頼んで食べている。彼女は日本食大好き。

帰り道、ジュー・チャット・ロードという伝統的な街並みの残る通りを、ワタルが案内してくれる。夜十時過ぎ。英国はまだ昼過ぎなので全然眠くない。気温は二十八度くらいか。しかし、ジットリとまとわりつくような湿度がある。七月と八月に日本を訪れたときの、殺人的な暑さに比べれば、まだ過ごし易い。とは言っても、この気温、そのまま眠るのにはちょっと暑すぎる。ホテルに戻り、余りやりたくはないのだが、エアコンを一晩中つけっぱなしで眠る。

出発前に色々あったが、何とかたどり着けた。出発の四日前、親しい友人が亡くなった。昼過ぎに病院から連絡があり、彼の家族や友人が病院に集まった。彼は真夜中過ぎに息を引き取る。翌朝、何時ものように「ホース・サンクチュアリ」で働いていると、ボスのジュリーが来た。彼女には、前夜、「事情によっては来られないかも知れない」と伝えてあった。友人が亡くなった旨を話す。

「あんた、こんなときに働いていていいの?」

とジュリー。

「何かしている方が気が紛れていい。」

と僕。実際、人の死に立ち会ったりしたあとの精神状態では、身体を動かしているのが一番。

休暇前の金曜日、ジュリーが僕に言った。

「あんた、色々あったけど、来週から休暇でしょ。とりあえずリラックスしてきなよ。」

そんな言葉に送られて、日曜日の午後、僕はロンドンを出発したのだった。

 

シンガポール最初の食事は何と寿司!これは予想外。

 

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