マリン・ペルソン・ギオリト
Malin Persson Giolito
(1969年〜)
ストックホルム出身、法律家、作家
「ロサンゼルス・タイムズ」ウェッブサイトより
「この顔、どこかで見たんだよなあ。」
と、私はマリン・ペルソン・ギオリトの写真を見たとき思った。彼女は、スウェーデン・ミステリー界の「大御所」、リーフ・ペルソン(Leif G. W. Persson)の娘であった。
「道理で・・・」
マリン・ペルソン・ギオリトは一九九四年にウプサラ大学法学部を卒業、まず、ルクセンブルクの欧州裁判所で働いた。その後、彼女はベルギーのブルージュにあるヨーロッパ大学でヨーロッパ法の修士号を取得、スウェーデンのストックホルム大学とフランスのカトリック大学でも学んだという。まあ、何とも勉強熱心な人である。一九九七年から二〇〇七年まで、ペルソン・ギオリトはストックホルムの法律事務所、マンハイマー・シュヴァルティングに雇われたが、三人目の子供を妊娠したときにそこを去った。
二〇〇八年に、彼女はブリュッセルの欧州委員会で競争法の弁護士として働き始めると同時に、最初の小説、「ダブルストローク」(Dubbla slag)の執筆を始める。二〇一五年以来、彼女はフルタイムの作家に転向、二〇二〇年現在、家族とブリュッセルに住んでいる。彼女は、「アメリア」(Amelia)誌に寄稿し、そこで文学について論陣を張っている。また、二〇一七年七月五日に、スウェーデン・ラジオ P1のプログラムを主催するなど、多彩な活動を続けている。
ペルソン・ギオリトの執筆活動は、小説「ダブルストローク」(Dubbla slag)で二〇〇八年に始まった。二〇一〇年にはスリラー小説の「まだ子供」(Bara ett barn)、二〇一二年には「合理的な疑惑の向こうに」(Bortom varje rimligt tvivel)を出版。二〇一六年には、「何よりも」(Störstav allt)が出版され、その作品で、その年の「スウェーデン犯罪小説作家アカデミー賞」を始め、数々の賞を受けている。
「何よりも」だが、法廷を舞台にした物語である。読んでいて、その詳細な記述は、法廷に実際何度も出た者でないと書けないと思った。著者が、法学を学び、その専門家として活躍したことを後で知り、なるほどと思った次第。
「何よりも」は、学校に於ける、銃の乱射事件をテーマにしている。最近は、銃乱射の「元祖」米国のみならず、ヨーロッパに於いても、学校やイベント会場で銃を乱射し、不特定多数の人間を殺害する時間が頻繁に起こっている。そういう意味では、現代の世相を反映した、タイムリーな作品と言える。
教室で、生徒によって、教師や同級生が射殺される。警察が教室に突入したとき、ひとりの少女だけが無傷でいた。彼女は銃を手にしていて、明らかに彼女の手にした銃から発射された弾によって、死亡した人物がいた。少女、マーヤ・ノルベリは逮捕され、殺人罪で起訴される。彼女の弁護を引き受けたのが、スウェーデン屈指と言われる弁護士、ペダー・サンダーである。弁護側は、マーヤの行為を正当防衛であり、無罪であると主張する。最終的に、彼女が有罪か無罪か、検察側と弁護側の丁々発止のやりとりが、法廷で展開される。これが見ものである。
私は、この小説を読んで、「ルイーズ・ウッドワード事件」(Louise Woodward case)を思い出さずにはいられなかった。一九九七年、ボストンの裕福な家庭でオーペアとして働いていた十九歳の英国人女性、ルイーズ・ウッドワードが、その家族の八カ月になる幼児への、殺人罪で逮捕され、起訴される。幼児に暴力を加え、死にいたらしめたというのである。米国のこと、裁判はテレビ中継された。私もその裁判の中継を見ていた。検察官が身振り手振りを交え、舞台俳優のように喋る様子に、大きな違和感を覚えた。ルイーズは、一度は殺人罪で有罪判決を受けるが、裁判長により「傷害致死」、懲役八カ月に減刑され、既に八カ月以上拘留されていた彼女は、服役することがなく、釈放される。その後、彼女は英国に戻ったと聞いている。この小説では、十八歳のマーヤが、優等生タイプの、少しポッチャリした少女として描かれている。私は、ルイーズ・ウッドワードとマーヤをダブらせながらこの小説を読んだ。検察側の主張の仕方も、ウッドワード事件と似ていると思う。
ドイツ語訳で四百五十ページを超える長い小説である。法廷の場と、マーヤの過去の記憶が交互に語られる。長いが、緊張感は持続されている。「ベニスの商人」の昔から、法廷劇というのは面白い。法廷での遣り取りがメインになっているが、意外に読み易い文章である。「夢の中では嘘をつけない」というタイトルは、マーヤが裁判の最終週の前に眠らないように努力したことによる。その理由が「夢の中では嘘をつけないから」と言うものであった。この作品二〇一九年にスウェーデンでテレビドラマ化されている。
父親のリーフ・ペルソンと。スウェーデン、Expressen紙、ウェッブサイトより。
作品リスト:
l Dubbla slag(ダブルストローク)2008年
l Bara ett barn(まだ子供) 2010年
l Bortom varje rimligt tvivel(合理的な疑惑の向こうに) 2012年
l Störst av allt(何よりも)2016年
l Processen (裁判)2018年
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(1) ウィキペディア、スウェーデン語版、Malin Persson Giolitoの項。
(2) Im Traum Kannst Du Nicht Lūgen, Bastei Lūbbe AG, Köln, 2017