ミレニアム・シリーズ四作目

 

ラーガークランツの名前で発表された「ミレニアム第四作」。これはまだ許せるが、「第五作」は・・・

 

スティーグ・ラーソンの「三部作」は、各国でベストセラーとなり、これまで、北欧の小説や、ミステリーに手を出さなかった読者の心までも捉えてしまった。また、映画もヒットし、ハリウッドでリメイク版が作られるほどになった。スウェーデンの犯罪小説の普及と発展、その意味では、ラーソンは、マンケルと並ぶ立役者となった。

さて、三部作が大成功を収めた時点で、ラーソンが四冊目の本を執筆していたかどうかが、問題となり、話題となった。ガブリエルソンは、その回顧録で以下のように述べている。

 

「その間に(訳注:ラーソンの小説が出版社に売れた後の期間を指す)スティーグの本は出版され、映像化の話も持ち上がった。しかし、交渉権や、利益は、全て出版社と、スティーグの父と兄に行ってしまった。スティーグの書きかけていた、四冊目のストーリーの存在の可能性が明らかになり、出版社が躍起になって、それを探し始めた。私の元にも、四冊目のストーリーの原稿を提供することを条件に、色々な働きかけが届いた。私も『エキスポ』も、そのストーリーの原稿が入っているであろうコンピューターの存在を『知らない』と言い通した。」

 

背景には、ガブリエルソンとラーソンの親族との確執がある。「内縁」であるが故に、ラーソンの死後、小説の版権が、ガブリエルソンではなく、ラーソンの父親と兄に行ってしまったのである。

事実、四冊目の本の原稿は未完であるが存在した。ラーソンは生前、四冊目を二百ページまで書き、ラップトップ・コンピューターに保存していたのだった。そのラップトップは「エキスポ」の編集局にあるのだが、ジャーナリストのソース守秘義務のため、裁判所の命令がないと公表できない。ガブリエルソンは、何度も、その四冊目のストーリーをよこせと言われ、色々な交換条件を持ち出されている。結局、四冊目の原稿の存在を彼女は認める。そして、二〇一四年現在、ラーソン一族がその出版を拒否したところで、ガブリエルソンの回顧録は終わっている。

ラーソンの三部作を出版した、ノルステッド社は、ガブリエルソンから買った原稿を、何とか出版し、「ミレニアム」シリーズを継続しようと画策する。二〇一三年、同社は作家でジャーナリストである、ダヴィッド・ラーガークランツ(David Lagercrantz)と契約し、彼に未完原稿の完成を依頼する。しかし、その時点ではまだ、ガブリエルソンから原稿の提供は得られなかった。結局、二〇一五年の八月、「Det som inte dödar oss」(我々を殺さなかった者)というタイトルで出版されている。二〇一七年に、更に続編が出版されているが、それは未完原稿さえなかったものなので、完全にラーガークランツの創作になるものであろう。

私は四冊目、五冊目は読んでいない。成功に乗じて、「柳の下の泥鰌」を狙った出版社の魂胆が見え透いているからである。正直、それらの本が売れず、話題にならないことを、私は個人的に望んでいる。