市場に行った
魚屋のおやじと値引き交渉を行うゾーイ。
「値段の交渉は、中国人に任せた方がいい。」
魚屋のおじさんと値切り交渉をしているゾーイを見て僕はそう思った。僕は、値切るのが苦手。いつも言い値で買ってしまう。しかし、中国人は違う。まず値切る。そして、相手に負けさせる、「駆け引き」を知っている。結局、ゾーイは言い値が六十ユーロだった魚を五十ユーロに負けさせ、おまけに小さなカニを三匹つけさせた。
五日目、月曜日。今日も、ワタル一家は、カリアリに行くという。
「今日は、マーケットに行くの。」
とゾーイが言う。どんなマーケットか知らないが、今日は、僕もついて行くことにする。その時点で、僕は、「青空マーケット」、「蚤の市」のようなものを想像していた。
九時前に、ゾーイの運転で別荘を出発。助手席にワタルが座り、後部座席にエンゾー、僕、ミドリが座る。昨夜からの強風は収まらない。横風にあおられながら、ゾーイは車を運転している。カーナビのおかげで、カリアリ旧市街の迷路のような道に迷うこともなく、一時間後に僕たちは、「サン・ベネデット公設市場」の駐車場に車を停めた。
「立派な建物やん。」
僕は感心する。外から見ると、体育館をもうちょっと重厚にしたような建物だった。エンゾーの手を引いて中に入る。市場は二階建てで、一階が魚コーナー、二階は野菜、肉、チーズその他のコーナーだった。市場と言っても、それぞれの区画に、別々のお店が入っている。
まず、二階の野菜、肉、チーズその他のコーナーへ行く。ハムの店の上に、「プロシュート」が吊り下げられている。生ハムである。豚の太ももを塩漬けにした乾燥させたもの。その太ももがぶら下がっているのだ。陸上の短距離選手の太ももを思い出させる。
「シンガポールへのお土産に、一本買うて帰ったら?」
と、結構思い切った買い物をする、ワタルに勧めてみる。
階下の魚コーナーへ行く。大理石でできた台が並んでいて、三十軒近くが入れる広い場所。しかし、その朝開いていたのは、三分の一くらいだった。
「今日は月曜日だろ。昨日は漁師が漁に出てないから、魚が少ないんだよ。明日来たら、もっとたくさん魚があるよ。」
と一軒の魚屋のオヤジが言った。その魚屋のオヤジとゾーイが、交渉を始めた。オコゼのような赤い魚二匹と、クロダイのような魚一匹。どちらも三十センチくらいある大物。ワタルとゾーイは、今晩は魚料理に決めたようだ。魚屋のオヤジは、三匹で六十ユーロだと言う。ゾーイは、四十ユーロでないと買わないと主張している。
「奥さん、それはないよ、五十以下にはできないよ。」
とオヤジ。五分くらい交渉した後、根負けしたオヤジが、カニを三匹付けることで、二人の交渉は目出度く五十ユーロで妥結。ゾーイは「してやったり」という顔をしている。
生ハム、プロシュート。いったいこれから何枚のハムが取れるのか。メロンに乗せて食べると最高。