自分の前途に乾杯

 

二日間付き合ってくれたマンフレッドとクリスティーネ

 

しかし、僕のドイツ語がそれほど卓越したものでないことは、自分が一番よく分かっている。ドイツ人は、基本的にドイツ語を話す外国人にとって「甘い」民族なのである。

「よくぞドイツ語を話してくれて有難う!」

そんな感じ。だから、下手なドイツ語で話しても一所懸命聞いてくれる。ドイツ人は、自分たちの話すドイツ語が「大変難しい言語」であると信じている。しかし、発音や文法に例外が少ないし、はっきりと発音する言語だし、一見複雑な冠詞の用法も、「てにをは」を使える日本人にとっては、それほどとっつきにくいものでもないと思う。

反対に、英国人は、英語を話す外国人にとって「厳しい」民族である。こっちが汗をかきかき英語で話しても、

「あんた、英国に住んでいるんでしょ。それなら、英語くらいまともに話しなさいよ。」

という、冷ややかな反応を浴びてしまう。

僕がドイツとドイツ人を好きなのは、ドイツ語を話す人間を「仲間」として受け入れてくれる、そのある意味では寛容な、別の意味では偏狭な民族性なのである。

空港で、飛行機を待ちながら、僕は本屋で面白そうな本を探して、買い漁る。今回は本の買い出しツアーでもあるのだ。ともかく、今回のドイツ小旅行は、サラリーマン生活の最後を飾る楽しい出来事になった。

「勤め人生活もあとちょうど四週間か。」

僕は空港の待合室で、ヴァイツェンビアー(小麦のビール)を飲みながらつぶやいた。その先はこれまでのプロジェクト・マネージメントとは全く異なる「外国人のための日本語教師」をして生きていくつもり。

「乾杯!」

僕は自分で自分の前途を祝して、独りでヴァイツェンビアーのグラスを挙げた。

 

別の角度から見たエルツ城。城そのものより周りの様子がホグワーツに似ている。

 

***

 

ドイツから戻り三週間が経った。ようやく旅行記を書き上げたとき、会社員生活も一週間になっていた。「人生最後の出張」も終わり、正直ホッとしている。ドイツにいたことが遠い昔のことのように思えてくる。この三週間は本当に長かった。

<了>

 

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