ブドウを読む

 

斜面に広がるブドウ畑。収穫も近い。

 

ケーニクスヴィンターの街の背後には、なだらかな山が連なっている。「ズィーベンゲビルゲ」、つまり「七つの山」という山地で、文字通り七つの峰がある。信じられないが、火山活動で出来た山だという。火山はもう完全に活動を停止している、つまり「死火山」であるらしいが。

「火山地帯だったら、地震もあるの?」

とマンフレッドに聞くと、

「ごくたまに小さいのがね。」

とのこと。

ワイン山の麓に車を停めて、坂道を登り始める。斜面にはブドウの木が連なっており、良く見ると薄緑色の実がぶらさがっている。太陽の光が、ブドウの葉も、実も、透けて通り抜けていく。

「この辺りがブドウ栽培の北限でね、リースリングという低温に強い品種なんだ。」

とワイン好きのマンフレッドの「うんちく」が始まる。

「もう収穫していいの?」

と僕は尋ねた。そのとき、野菜や穀物を収穫する「エルンテン」という動詞を使った。そうしたらクリスティーネに「レーゼン」だと直された。ブドウのときだけ、「収穫する」に、別の動詞を使うという。「レーゼン」は「読む」というのと同じ動詞、本のページを一枚ずつめくるように、一房ずつ丁寧に摘み取っていくといくことね。なるほど、「アウスレーゼ」は、選びながら粒よりを摘み取ったという意味か。ともかく、僕の質問に対する答えは、

「南の方ではもう収穫が始まってるけど、この辺りは九月になってからかな。」

ということだった。今年はドイツも英国と同じように、雨の少ない暑い夏だったという。

「だったら、今年のワインは美味しいんだよね。」

「でも、これから収穫まで、まだ何があるか分からないから。」

そんな話をしながら林の中の坂道を小一時間登って、ドラーヒェンフェルスに着いた。

「わあ、すごい人。」

坂道を登っているときは、数人しか会わなかったのに、ドラーヒェンフェルスのライン河を見下ろすテラスには何百人もの人々がいた。

「皆、電車で登ってくるの。」

とマンフレッドが言った。テラスの右側を見ると、緑色の二両連結の小さな電車が停まっている。ケーニクスヴィンターとの間を往復している電車だった。かなりの勾配を上り下りするので、ケーブルカーかなと思うがそうではなかった。線路が三本あり、真ん中の線路にはノコギリの歯のようなギザギザが付いている。噂に聞いた「ラック式」の鉄道なのである。急勾配で滑り落ちないように、真ん中のギザギザの付いたレールに歯車を引っ掛けて走る。日本では、かつて信越線の横川、軽井沢間で使われていたのが有名だ。

 

山道を通り抜けて頂上に着いたら、突然沢山の人が・・・

 

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