人生を変えたS先生のスライド

 

三十七年ぶりって、すごいシチュエーション。結構盛り上がる。

 

ヒロッサンと話す。彼は音楽が得意、ピアノも弾けたし、高校の文化祭ではバンドを組んで、ステージで歌っていた。僕は彼に言った。

「当時は音楽できる人、すっごく羨ましかったんよ。」

僕は子供の頃、絵は好きで得意だったか、音楽とスポーツはさっぱりだった。

僕:「それで、遅まきながら、六年前からピアノを弾き始めたん。」

彼:「ふんふん。」

僕:「でも、独りで弾くピアノでは、子供の頃からやってる人たちに絶対勝てないってわかったん。」

彼:「ふんふん。」

僕:「そやし、最近かみさんと連弾してるねん。これやと希少価値やろ。」

彼:「そらええこっちゃ。頑張りや。」

と、ヒロッサンは励ましてくれた。

 二次会の席にヤオが来ていた。

「うわ〜、めちゃ久しぶり〜」

彼とも、高校卒業以来、三十七年ぶりの再会。

「ケベ、俺の弟に水泳教えてくれたよな。」

と開口一番ヤオは言う。そうだった、スポーツは苦手な僕だが、唯一水泳だけは比較的得意だったのだ。一応水泳部だったもん。ヤオに頼まれて、夏休み弟さんの水泳の指導をしたことを思い出す。しかし、彼も昔のことをよく覚えている。

 これも二次会の席、気持ち良く酔っておられるS先生と話をする。先生はロシア、当時のソ連を旅行され、地理の時間にそのスライドを見せて下さった。

僕:「先生、僕、今ロンドンに住んでるんですけど、中学の頃に海外に住もうって決心したんです。ふたつのきっかけがあるんですけど、先生もそれに一枚噛んでるですよ。」

S先生:「そらまたなんでや、カワイくん。」

僕:「先生が海外のスライド見せてくれたでしょ。あれ見て、僕、絶対海外に住むって決めたん。もうひとつは月曜の七時半、ニュースの後にやってた『NHK特派員報告』。あれも毎週見てて、やっぱり海外に住もうって思ったん。」

S先生:「そらええ話や。僕のスライド見て、人生が変わった人がいるなら、僕も嬉しいよ。」

先生はとても嬉しそうだった。お酒を召し上がっていたこともあったが。

「ケベ、ほんまに楽しそうやなあ。」

とゴローが言った。事実、本当に楽しかったのだ。

ユカの横に座って彼女と話す。某美術館の学芸員をしている彼女とは、数年前に彼女の働く美術館で一度会っている。優しい声の彼女と話すと心が和む。「癒し系」の女性?しかし、そんな印象を与える人こそ、実は苦労人が多いのだ。

 

生徒たちも五十代半ばになってしまたけど、先生にはお元気でいてほしい。