ニワトリさん可哀想
ニワトリ殺しの現場から離れようとしないオリバー。
市場の入り口に、中国人の建てた仏教の祠があった。鮮やかな朱色に塗ってある。オリバーがその前で手を合わせる。彼は合わせた手を上下に振っている。
「日本人は神社やお寺に参拝するとき、基本的に手を合わせるだけでしょ。でも、中国人は合わせた手を上下に動かすのよ。オリのは中国式。」
とチズコの説明が入る。オリバーの拝むのを見ていた中国人のおじさんが褒めてくれる。
「なかなか上手だ。」
市場で野菜を買う。野菜の種類は本当に豊富だ。チズコは卵屋のおばさんと仲が良いらしく、親しげに言葉を交わしている。
チズコが鶏肉を買っている。そのマーケットの鶏肉の新鮮さは保障付き。何せ、すぐ横で生きたニワトリを次々と殺しているのだから。若い女性がニワトリを籠から取り出し、首をポキッと折る。おそらく血を出すためだろう、首にナイフで切り目を入れ、脱水機のような「自動羽毟り機」兼「血絞り機」に投げ込むのだ。オリバーはそれに興味を持ち、女性がニワトリを次々に「屠殺」していくのを見ている。チズコの買い物が終わって、
「オリ、行くよ。」
と言っても、彼は「ニワトリ殺し」の前から動かない。ふたりで彼の手を引いて歩き出す。
「ニワトリさん、可哀想。」
とオリバーはポツンと言った。しかし、その顔は全然可哀想な表情ではなかった。
「あれを見て、ベジタリアンになるには、オリはまだ若すぎるのね。」
とチズコが言った。
車の中で、マレーシアにはゴキブリがいるという話になった。チズコはゴキブリと蚊とコウモリが嫌いだという。
「ヤモリもいるよ。」
と後ろの席からオリバーが言った。
「こんなに大きい奴。」
と彼は両手を広げる。冗談ではなく、体長一メートル以上のトカゲ、モニターリザードもいるらしい。ゴキブリが大嫌いで、ヨーロッパに移り住んだ後、ゴキブリと縁が切れてほっとしている僕にとって、マレーシアに住むのは、それだけで二の足を踏みそう。でも、大きなトカゲは是非見てみたい。
アパートに戻り、三十三階でエレベーターを降りると、肉の焼けるジューシーな匂いがエレベーターホールまで漂っている。買ってきた野菜類も最後一緒にローストして、ローストランチの出来上がり。
ジェイソンがローストポークを切り分け、アップルソースで食べる。なかなか美味しい。
「こうしてローストランチを食べていると、とってもクリスマシー。」
とチズコが言った。本当にその通り。ニュージーランド人のジェイソンが選んだニュージーランド産の白ワインも、フルーティーで最高。
これからクリスマスのロースとランチの始まり始まり。ジェイソン、お疲れ様でした。