船岡温泉は最高
今年からピアノの連弾を始めたマユミと僕。曲によって左右を交替する。
八時過ぎ、関空からシャトルバスに乗り京都に向かう。長旅の後だが、比較的よく眠れたので、頭はかなりはっきりしている。九時半には鞍馬口の生母の家に着いた。僕の思ったより早い到着に母は驚いている。
最初にも書いたが、今回の一時帰国は、姪のカサネの結婚式に出席するためだ。八月ごろ、十二月十九日に結婚式を挙げるから、参加できないかという打診がカサネから来た。高齢の父の見舞いも兼ねて、帰国することにし、結婚式出席にオーケーの返事をした。
すると、カサネが披露宴でピアノを弾いて欲しいと言ってきた。もうピアノも借りてあるという。僕には独りで弾くほどの力量はまだない。それで、妻を説得し、今回は披露宴では妻と「連弾」ということになった。曲はスコット・ジョップリンの「エンターテイナー」。
十一時ごろ、母に自転車を借り、岡崎で開業する高校の同級生、D君の医院へ行く。彼には時差ボケ対策のため、睡眠剤の処方をしてもらうことになっていた。自転車で走っていても、ロンドンのことを考えると、全然寒く感じない。母に言わすと、「今年一番の冷え込み」だそうだが、京都の寒さなど、ヨーロッパの寒さに比べると可愛いものだ。
日曜日の結婚式に着て行く礼服と革靴を買わねばならない。何せ僕が持っている礼服は、一昨年銀婚式を迎えた僕が、自分の結婚式のために買ったやつ。つまり二十七年前のもの。袖を引っ張ったら外れるかもしれない。しかし、まだサイズはピッタリなんだけどなあ。二十五年間で体型が全然変わらないのは、自分でもすごいと思う。
ともかく、まず礼服を買わねばならない。D医院を出た後、僕は四条の高島屋の隣にある、「紳士服の青山」という店に入った。礼服は結構高く、ネクタイやハンカチなどアクセサリーを入れたら、予算がオーバー。それで靴はバッタ屋の三千五百円のものになってしまった。
買った礼服を片手で下げて、もう一つの手で自転車を運転する。京都御所の砂利道での片手運転はやはり難しく、松の木を避けようとして、しっかり転んでしまった。
鞍馬口の生母の家に戻ったら、ヘルシンキ経由で到着したばかりのマユミが飯を食っていた。その後、疲れたので横になるというマユミを残し、一時間半ほど父の家に顔を出す。継母は留守だった。十一月に九十歳の誕生日を迎えた父は、前回見たときより顔色がよく元気そうだった。
夕方、妻と一緒に(と言っても入り口までだが)銭湯、「船岡温泉」にいく。サウナのテレビで、外国人観光客が地元テレビ局のインタヴューを受けているのを見る。
「京都で一番良かったのは。」
と聞かれたその外人は、
「船岡温泉!」
と言った。その後、船岡温泉が写し出される。自分の今いる場所がテレビに写っているとのいうのも変な気分。
三人で夕食の後、それまで機中二泊で疲れ果てていた僕は、八時前に眠ってしまった。
九十歳の誕生日のお祝いカードを持つ父。