写経

圧倒的に外国人観光客が多かった金閣寺。

 

「ごめんください。写経をしたいのですが。」

と言うと、若い女性が現れ、私は、畳の上に低い机のずらりと並んだ、広い部屋に案内されました。

「十五分コース、三十分コース、一時間コースがあります。」

とのこと。そして、どれも同じ値段、千円(約七ポンド)だそうです。値段が同じなら、ということで、一番字数の多い、一時間コースを選びました。一時間コースは、「般若心教」という経典を全文書き写すものだそうです。コピーすると言っても、何かを見て書くのではなく、印刷してある文字の上に薄い紙を置き、筆でなぞっていくのです。一見簡単そうですが、きれいになぞるのは、結構難しいものです。しかし「お手本」はプロの書道家が書いたものですから、それと同じように書くことは、バランスの良い字を書くとてもよい練習になります。

若い女性に言われたように、まず手を合わせて心を静めて書き始めます。結構集中力を必要とします。四十五分後、書き終わりました。再び手を合わせます。何か、とても清々しい気分でした。本当は出来た作品を持って帰りたかったのですが、それは「奉納」つまり寺に納めていくことになっている決まりです。写真に撮ってから、仏像の前に置きました。

金閣寺の庭に出て、有名な「ゴールデン・パビリオン」を見ます。金色の建物が、松の緑に映えて、またそれが池の水に写って、とても美しい光景です。これが、世界の人気観光地ナンバーワンの京都の、そのまたナンバーワンの場所なのですから、当然かも知れませんが。

誰かに写真を撮ってもらおうと思って、私とよく似たカメラを持っている人を捜しました。いました、ニコンのカメラを提げている人が。

「すみません、写真を撮っていただけませんか。」

その人はポカンとしています。日本語が分からない外国の方のようです。同じことを英語で繰り返して、写真を撮ってもらいました。前日伏見稲荷へ行ったときも感じたのですが、昨今外国人観光客の多いこと。さすがに世界のナンバーワンですね。

その夜、母と、DVDで映画を見ました。風呂好き、温泉好き、銭湯好きの私が、前々から見ようと思っていた「テルマエ・ロマエ」という映画です。ヤマザキマリさんという方が描いた漫画が原作で、それも今回「アマゾン」で全巻購入しました。古代ローマには、現在の日本と同じく、公衆浴場、銭湯というものがあり、人々の社交の場、憩の場になっていたそうです。ローマ時代の浴場の設計技師、ルシウス・モデストゥスが、現代の日本の温泉や銭湯にタイムスリップして、そこから色々なヒントを得て、ローマで成功するという他愛もない話です。シャンプーハット、フルーツ牛乳、浴場に書かれた富士山の絵などが、特にローマ人のお気に召したようです。母とふたりで映画を見るなんて本当に久しぶり。母も、余りに馬鹿馬鹿しいストーリーを楽しんでいたようです。日本での最後の夜にふさわしい、楽しい夜でした。

 

古代ローマ人が、フルーツ牛乳に出会った感激的なシーン。

 

<了>