あとがき
七月になれば、ミコノス島は若者でいっぱいになるだろう。
ロンドンへ帰って、翌朝会社に行く前、ズボンを履き、ベルトを締めた。
「あれっ。」
と思う。ベルトは同じ穴を使っているのに、ゴゾゴゾなのだ。実は、ミコノス島では目を覚ました後、必ず腹筋運動をしていた。そしてよく歩いた。その効果があったのか、お腹が少しへこんだようだ。起きてきて妻に、ベルトを見せて言った。
僕:「アメリカの大統領になったみたいな気分。」
妻:「どうして?」
僕:「ルーズベルト」
妻は朝からムッとしている。
昼休み、ミコノス島で鍛えた足を維持するべく、会社を出て、ユニオン運河に沿って歩く。ミコノス島にいる間に、ロンドンでも気温が二十度近くまだ上がるようになっていた。妻と一緒に歩いていると話ができるが、独りで歩いていると暇。歌を唄う。
「どんぐりコロコロ、どんぶりこ。オカマにはまって、さあ変態〜」
どうも、休暇で「頭のネジ」が緩んだようだ。
サッカーのワールドカップももうじき始まる。表通りに出ると、イングランドの赤と白の旗を立てた車が走っている。
数日して、アノ・メーラで出会ったドイツ人の夫婦、テレーザとクリストフからメールが来た。彼らも無事休暇を終え、ゲッティンゲンに戻り、働き始めたという。アノ・メーラの修道院の中にあり、その実を食べることができた木の名前は、英語で「マルベリー」だとクリストフが教えてくれた。辞書で調べると「くわの木」となっている。
「山の畑の桑の実を、小篭に摘んだは、まぼろし〜か〜。」
という「赤とんぼ」の歌の、正確なイメージが五十数歳になって初めて湧いた。何歳になってもまだまだ学ぶことはあるのだ。
駄文を最後まで読んでいただいた、いやこれから読んでいただくことになる皆様に感謝しつつ、筆を置くことにする。数ヵ月後に発表されるだろう「ロドス島旅行記」もお楽しみに。
えっ、もうこんなくだらない文章は結構?まあ、そうおっしゃらずに・・・
まだ涼しくて、空いているときに行けて、ラッキーだった。
<了>
(2010年6月)