人間の習慣

 

棘のある植物に注意しながら、こんな場所を歩いていく。

 

カラファティスという、結構高級ホテルの立ち並ぶビーチに車を停め。そこから、海岸に沿って歩き出す。崖の上の道なき道だ。途中、絶壁や工事現場で、どうしても海岸沿いを通れないときは、少し陸に入って普通の道路を歩く。四十五分ほどで、カラファティスから岬ひとう向こう側にあたる、リアのビーチに到着。ここは二日前、パーティービーチに行く前、一度来て、波を眺めていた場所。つまり、ここはまだ車で来られる。工事中でブルドーザが動き回り、水が濁っているので、少し休憩しただけで、次の岬を目指して歩きだす。

次に着いたのは、ツサガリのビーチ。ここへは道が通じていないので、ボートでしか来られない。五十メートルもない狭いビーチ。少し居ただけで、更に次の岬を回る。

最後に着いたのがフラギアのビーチ。ここもボートでしか来ることができない。三百メートルくらいの広くて白い砂浜。そして、そこに僕達ふたりしかそこにいない。これはとても贅沢な気分。

今日もここまで一時間半歩いたが、歩いていてもゴールがつまらないと、満足感がイマイチ。昨日の山頂の景色と言い、今日のこのフランギアビーチと言い、ゴールが良かったので、歩いた甲斐があったというもの。満足感に浸りながら昼食を取る。

このビーチ、夏の最盛期には、ヌーディストが集まる場所だという。

「誰も見る人がいないんやから、一度裸で泳げば?」

とマユミに勧める。

「あなたこそ裸で泳げば?」

逆に勧められるが、何となく気恥ずかしい。歩いている最中用を足すとき、

「どうせ、半径一キロ以内には誰もいないし、見る人はいないのに、どこでもいいやん。」

と言っても、妻は物陰に隠れてやっている。人間の習慣というのはおかしなものだと思う。

 今回の旅は「ミコノス島ビーチ巡り」と名付けようと、その時思いついた。

 帰り道に障害に出会う。来るとき、普通の道路を通った場所を、今度は海岸沿いに行ってみた。突然、有刺鉄線が張られた壁が行く手を遮る。波打ち際の岩沿いに行く可能性も検討してみたが、岩が大きすぎて、乗り移れそうにない。仕方なく、有刺鉄線に沿って、それがどこかで途切れることを期待しつつ歩く。塀の中は、かなり高級そうな別荘群。しばらくして道路に出るが、両側に別荘の門があるだけで、メインロードではない。そこからどうして「脱出」するのか今ひとつよく分からない。

 ちょうど一軒の別荘から車が出てきた。それを運転する兄ちゃんに道を尋ねる。英語は通じないが、ともかく僕達が迷っていることが分かったらしい。

「後ろに乗りな。」

と言っているらしいのでそうする。兄ちゃんは僕達をメインロードまで乗せてくれた。そこで礼を言って降ろしてもらう。助かった。

 

ふたりで独占できたフランギアのビーチ。道路がないのでボートか徒歩でしか来られない。

 

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