高いところへ登るのが好きな人々
石を積んだ塀を何度も乗り越え、一度だけ潜った。細いマユミだから出来る芸当。
島の最高峰を目指して歩き出したが、足元にはチクチクと棘のある植物が生えているし、小さな谷を何度か渡らないといけない。おまけに、羊や山羊を囲っておくための高さ一メートルくらいの石垣は、石を積んだだけなので、グラグラしてよじ登るのが大変。僕達はジグザグのルートをかなり苦労しながら進んだ。
途中誰にも会わない。結局、行程の中で、道を尋ねた地元のおじさん一人に会った以外、誰にも会わなかった。ノンビリ草を食んでいた羊が、突然現れた僕達に驚き、一斉に移動を始める。三十分後に、やっと山の裾に辿り着く。辺りはアザミの群生。紫がかったピンクの花が美しい。そこを通り抜け、最後は岩をよじ登り、一時間後、午前十一時前に、僕達は三角点に立った。
山の頂上からは三百六十度のパノラマが開けている。デロス島やその他の島々、ミコノスタウンや空港の滑走路などが良く見える。マユミはその景色に囲まれて、パンとチーズとサラミで朝食を食べている。僕もポテトチップスをパンに挟んで食べる。(これ結構いける。)気温がそれほど高くなく、風も強いので気が付かないが、紫外線が強く、腕や顔がジリジリと焼けているのが分かる。そして、確実に言えることは、半径一キロ以内に、他の人間は誰もいないことだ。
山頂から見ると、一キロほど離れた場所に、もうひとつ尖がった山の頂があり、その一番上に赤い屋根と、白い壁の教会が建っているのが見える。
「あそこもついでに『征服』しない?」
とマユミに聞くと、とにかく高い所に登るのが好きな彼女は一も二もなく承知。夫唱婦随、次の頂点を目指して歩き出す。
目印は山頂の教会。極めて分かり易い。途中石で組んだ壁に何度も突き当たると、苦労して越えていたが、最後は適当に石を崩して、低くしてから乗り越える。壁を乗り越えて跳び下りたとたん、羊の白骨死体があって「ギャッ」と叫んだこともあった。チクチクした植物を避けて、入念にルートを選ぶ。最後にとんでもない急坂を登って、三十分後、僕達は二つ目のピークを極めた。
絶壁の上にある山頂には、教会と、測候所と、アンテナが立っていた。ギリシアでは、こんな場所に何故教会があるの、いや、こんな場所にどのようにして建てることができたのと、考え込んでしまうような場所に、教会が建っている。教会に入ってみる。こんな場所でも来る人がいるらしく、オリーブ油、お菓子などのお供え物がしてあり、壁にはイコンが掛かっている。
帰り道は早く、一時間余でアメニティス灯台に着く。時間はまだ午後一時だ。歩いている途中、青い海に白い三本マストの帆船が見えた。白と青の対比が美しい。アザミやポピー(ケシ)の群生が目を楽しませてくれた。とにかく、空が抜けるように青く、海も深みのあり、それでいて鮮やかな青色。僕達はその「色」を楽しんだ。
青い海に浮かぶ白い帆船。解説が一切不要な写真とはこのこと。