今日も刺身

 

浪打際の不思議な縄跳びおじさん。

 

少し走ると、ふたりの東洋人の女の子とすれ違う。

「パラダイス・ビーチってこの道ですか。」

と女の子のひとりが聞いてきた。

「そう、ここを真っ直ぐ行ってつきあたり。」

と答えると、

「ありがとう。」

と日本語でお礼が来た。聞いてみると、香港から来て、少し日本語を知っているという。彼女達も、ビキニの上に薄く透き通るワンピースを着て、しっかりとメーキャップ。

「あの娘たちも、気合が入ってるね。」

車を走らせてから、僕は妻に言った。

 その後、僕達は更にもうひとつのパーティービーチ、「スーパー・パラダイス」にも立ち寄る。同じような雰囲気。その日の午後だけで、島の南側にあるビーチはほぼ行き尽くした感じ。何せ、車で端から端まで三十分あれば十分という小さな島なのだから。あるビーチは観光化されており、あるビーチは自然のままだった。

 その日訪れた中で、島の最西端にあるカパリというビーチを僕は一番気に入った。幅は五十メートルくらいだけれど、水が翡翠のような色をしている。僕はそこで泳いだ。水は少し冷たい。そのカパリ・ビーチに僕達の他にもう一人の四十歳くらいの男性がいて、彼は何故か砂浜で縄跳びをしていた。ミコノス島の不思議な「縄跳びおじさん」。

 そのカパリ・ビーチに行く道の山側には、超高級そうなホリデーアパートメントや、大きな別荘が並んでいる

「五十余年生きたけれど、結局、ついにこんな超高級別荘を持つ身にはならなかったな。」

と思う。でも、こうやって、お気楽にあちこち旅行できるだけの身分になれたのだから、人間、その辺りで満足しなくてはいけないとも思った。

 途中、スーパーマーケットで買い物をして帰る。今日は島中をほぼ全域、車で走り回わったが、この「デロス・スーパー」以外に、スーパーマーケットは一軒も見なかった。ひょっとして、ミコノス島には一軒しかスーパーがない?まさか。

 五時半にペンションに戻り、刺身、ホウレンソウのおひたし、ギリシアソーセージ、それにサラダの夕食。二日続けての刺身だ。

「母ちゃん、今日も刺身なの。たまにはカレーが食いたいよ。」

と言うくらい、刺身を続けて食ってみたいもの。カツオがなかったのがちょっと残念だったが。

今日のドライブだが、曇っていて涼しかったし、到着以来、毎日炎天下を十キロ以上歩いていたので、ちょうど良い休養になったようだ。美味しい地元産の白ワインが心地よく回り、その日は、何と夕方七時半、外はまだ明るいのに眠ってしまった。

 

今日もまた刺身。たまにはカレーが食いたい?

 

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