ギリシア語の難しさ
歴史と時の流れに想いを馳せながら弁当を食べる。
石に彫られた文字を僕が「解読」していると、アメリカ人の母と娘が寄ってきて、
「あなた、この文字を読めるの?」
と聞いてきた。
「うん、ギリシア語を勉強しているから多少はね。それにギリシア語は当時からそんなに変わっていないみたいだし。」
と答える。
「ギリシア語って難しいの?」
と彼女達は更に聞いてくる。
「英語のアルファベットになくて、ギリシア語だけにある文字はそれほど問題ないけれど、英語のアルファベットにも、ギリシア語のアルファベットにもあって、しかも全然読み方が違う文字が幾つかあるんです。その時の『頭の切換え』がとっても難しいですね。」
と僕は説明する。実際、「ρ」は英語の「R」の発音だし「ν」は英語の「N」の発音。ところが、四十年来の習慣で、ついつい英語式に読んでしまう。「φ」とか「ψ」とか最初から英語にない文字は、そんな心配がなくて、すっきりと頭に入って、かえって楽なのだ。
中国語を勉強している息子のワタルも、日本の学生は漢字の意味が分かるので、読んで理解するのは早いけど、どうしても漢字を日本語式に読んでしまうので、話すのが下手だと言っていた。それと少し似ていると思う。
一時間半ほどでティリアのガイドツアーは終り、神殿の跡で解散。ティリアと記念写真を撮って、彼女と別れる。マユミと僕は有名なライオンの石像の後ろの小高い場所で、買ってきたパンとチーズとサラミで昼食を取った。空は薄曇り、それほど暑くないので、観光するのにはお誂え向き。もし太陽が照っていたら、全然陽光を遮る物のないこの場所での行動は、結構辛いものなっていただろう。
その後、島の中にある博物館に入り、発掘された色々な大理石の像を見る。裸の像が多く、男性の「股」の部分が、すごくリアルに彫ってあるので、マユミと顔を見合わせて笑う。
午後一時半になり、ミコノスタウンへ戻る船が出港すると、島の中は急にガランとなってしまった。殆どの観光客は一時半の船に乗ったらしい。島には食べる所もないし、売店もない。僕達のように弁当を持って来なければ、ちょうどお腹が空く頃でもある。三時にミコノスタウン行きの最終便があるはずなのだが、辺りが急にシーンとすると、何となく心配になってくる。
島の一番高い山に登ってみる。標高百三十メートル。石段が付いている。頂上からは、辺りの島が見渡せてよい景色だ。しかし、降りるとき、景色に目が行って足元が疎かになったのか、足首を捻って転んでしまった。「グキッ」と音がしたが、その後も何とか歩けた。何よりカメラが無事だったことが、歩けることより嬉しい。
遺跡から発掘された像が並ぶ島内の博物館。どれも生き生きとした彫刻だ。