最後の夜

 

トマスに撮ってもらった写真。ふたりとも一週間でかなり日焼けした。

 

最後の日は、一日ビーチで過ごす。これが話題になるのが日本人。英国人のほとんどは、一週間マヨルカ島に滞在したら、僕達のようにあちこち動き回らず、毎日ビーチかプールサイドで過ごしているのだ。

ビーチへ向かう途中、土産物屋でサングラスを買う。

「最終日に買うて、どないすんねん。ロンドンでは不要のものやろ。」

と独り言。僕はスキー場以外、直射日光の下に出ても眩しいと思ったことがない。多分、僕の眼の虹彩が濃い色をしているからだと思う。サングラスは僕には不要と思うが、皆がしているし、僕も格好をつけたくて買う。七ユーロ。「レイバン」と書いてあるが、百パーセントまがい物である。

「ビーチボール」という遊びがある。板で出来たラケットでゴムのボールを打ち返す。いわば西洋版「羽根突き」。これをヨーロッパのビーチでは皆やっている。「ビーチバレー」がオリンピック種目になったのだから、「ビーチボール」もそのうちにオリンピックで行われるようになるのではないかと思う。

マユミとふたりでやってみるが、なかなか続かない。五回がいいところ。こんな時には上手い人のプレーを観察して、それを真似するのが一番。その結果、ビーチボールもコツがあることを発見。

「分かった!読めた!ビーチボールの神髄が。大リーグボール敗れたり。」

「何?」

「足は固定して、上半身と腕の動きだけでボールを返すんや。」

下が砂であるので、フットワークを使おうとしても疲れるだけなのであった。このコツを会得してから、僕達のビーチボールもかなり長続きするようになった。空を見上げると、パラセーリングをする人、モーターボートに引かれて、フワフワと空に浮かんでいた。

最後の夜、僕はマユミと街のナイトクラブに行った。その夜、マユミだか娘のミドリだかが好きなバンドの「そっくりさん」が、そのクラブで演奏するという。僕はクラシック一辺倒でロックやポップスのバンドは全然知らない。

ふたりでバーに陣取りジントニックを飲む。写真を撮ってもらったのがきっかけで、隣に座っていた男性と話す。デンマーク人の彼、トマスは独身で、ひとりで休暇を過ごしていた。やはり今日ここで演奏される音楽が好きで聞きに来ているという。彼も僕達と同じように、ギリシアが好きで、これまで何度もギリシアの島々を訪れたらしい。

「どうして、今回の休暇にマヨルカを選んだの?」

と妻が訪ねている。

「だって、メチャ安かったんだもん。」

とトマスは言った。妻と僕は同時に笑い出した。今回、僕達がマヨルカを休暇の目的地に選んだのもまさにその理由だったから。

 

帰り道、ピレネー山脈の上にはまだ雪が残っていた。

 

<了>

 

<戻る>