マヨルカ島で一番良い場所
フォルメントール灯台が岬の先端に見えてきた。
五日目、これも「デートレフのお勧めスポット」のひとつであるフォルメントール半島へ向かう。ここだけは、仮にデートレフの助言がなくても行っていたと思う。ポレンサ港から、カーブの多い山道に入る。森の中を通り抜け、岩をくり貫いたトンネルを潜り、しばらく行くと、岬の先端に灯台が見えた。灯台というのは何か人を惹きつけるものがある。
十九世紀の半ばに建てられたこの灯台、辺鄙な所だけに難工事であったという。最初はオリーブ油を燃やして、地中海を航行する船に灯りを送っていたという。灯台からの眺めは、当然のことながら最高。でないと、ここに灯台を建てた意味がないもんね。しばらくすると、観光バスが向こうからどんどんやってくるのが見える。
「ええ、またかよ。」
ここも観光名所なんだ。観光客の群れを逃れて、僕達は崖を降りる道を歩いてみる。しかし、道は途中で崩れていて海岸までは下りられなかった。
灯台で中国人の三人連れに会う。彼等はマヨルカ島で会った初めてのアジア人。さすがの日本人観光客もマヨルカ島までは来ないようだ。中国人の一行と少し話す。夫婦と奥さんの母親で、今はドイツに住んでいると言った。
帰りは例によってマユミの運転。岩をくり貫いただけのトンネルを抜けると、右側に素敵な入り江が見えた。水の色がトルコ石のようで素晴らしい。車を停めて、そこに降りてみることにする。茂みの中の踏み分け道を降り、入り江に着く。二十人くらいの人達がそこにいた。水が恐ろしいくらい澄んでいて、下の石がはっきりと見える。
先ほどの中国人の家族もそこにいた。そこで一時間ほど過ごす。静かで良い場所だ。
「マヨルカで一番良かった場所はどこかと聞かれたら、ここだと言うと思うわ。」
とマユミが言った。
ドイツ人のティーンエージャーが水の中に入り、
「ビキニのパンツが脱げそう。」
と騒いでいる。そうなっても、こっちは一向に構わないし、かえって嬉しいんだけど。
石浜を少し上がったところに「カラ・フィグエーラ」と書いた立て札があった。この場所はそう呼ばれるらしい。「カラ」と言うのは、小さな湾という意味らしい。
帰り道に海に突き出た展望台に登る。崖の上にあるこの展望台、真下が垂直の崖になっていて、下を見ると二百五十メートルほど下に海と波が見えるという、高所恐怖症の僕にはちょっと怖い場所だった。
ポレンサの街に入る。今日、日曜日は野外マーケットのある日だが、マーケットは午後二時で終わるらしく、どの店も片付の最中だった。マーケット広場に並べられたテーブルで、ビールを飲み、タパスを食べる。ビールが旨い。昼食の後、マユミは街の外れに聳える、高さ三百メートルある丘の上にある要塞を見に行くと言って歩いていった。僕は疲れたので公園のベンチで昼寝をし、その後マーケット広場のカフェでまたビールを飲んだ。
マユミがマヨルカ島で一番良いと言った、カラ・フィグエーラの入り江。