光のシンフォニー

 

パルマ大聖堂の中ではステンドグラスを通して差し込む陽光が、光がシンフォニーを奏でている。

 

僕は友人のデートレフに電話をした。彼は、毎年のようにマヨルカ島で休暇を過ごしている。頼まれたことは義務と心得え、きちんとこなすのがドイツ人気質だが、その「ドイツ人気質の権化」とも言えるデートレフは厳かに言った。

「明日までにお勧め観光ポイントのリストを作って知らせるから。」

僕と妻は、それに従って行動してみることにした。

マヨルカに着いた翌朝、車を借りた。「プジョー三〇〇八」という結構大きな車だ。一日二十八ユーロ。(二千五百円程度)とっても安い。と言うのも、一番小さな車を申し込んだのだが、その時、アパートの前の店に、大きな車しか停まっていなくて、取り寄せるのも面倒、

「持ってけ泥棒。」

という感じでそれを小さな車の値段で貸してくれたのだ。その車を運転して、早速パルマへ向かう。最初ガソリンがほとんど空で、次のガソリンスタンドを見つけるまでヒヤヒヤもので運転する。

基本的にマヨルカの町は、城壁で囲まれた古い町か、港町のどちらかだと言える。マヨルカの首都パルマはその両方を兼ね備えた町。結構大きな町だ。前にも書いたが、サッカーの一部リーグのチームがある。飛行場も大きく、デュッセルドルフ空港かマンチェスター空港並みの規模である。

旧市街の端の駐車場に車を停めて歩き出す。狭い石畳の道が迷路のように続いている。ベージュ色の石で出来た建物と、緑の窓枠というのが基本的なパターン。路地を抜けて大聖堂へ向かう。

水の畔に立つ大聖堂は巨大な建物。中に入る。建築家のガウディが祭壇を設計したという。丸い花形のステンドグラスがレンズになっている。ステンドグラスを通った光が教会の床に、様々な色の小さなスポットライトを照らしている。光のシンフォニー、これはなかなかよかった。

パルマを出て、北へ向かう。間もなく山道となりカーブの多い谷沿いの道を走る。しばらく走ると、山の中腹に張り付くように、ベージュ色、蜂蜜色の建物が並ぶ村が見えてくる。ヴァルデモッサだ。国道沿いの駐車場に車を停めて村に入る。一九三八年から翌年にかけて、作曲家のフレデリック・ショパンが、愛人のジョルジュ・サンドとこの村で過ごしている。ショパンは、結核を患い、その療養のために温暖なマヨルカに来たのだが、ここは彼とサンドにとって、期待したほど居心地のよい場所ではなかったようだ。有名な「雨だれのプレリュード」はこの村で書かれたものだという。しっとりと落ち着いた場所だった。

ヴァルデモッサから、曲がりくねった坂道を一時間ほど運転して、北海岸で一番大きいソイエールの町に着く。ここからパルマまで、トラムンターナ山脈を抜ける鉄道が走っている。最初は、レモンやオレンジを運ぶために作られたものだが、今は観光客のために走っている。軽便鉄道で、線路の幅は八十センチくらいしかない。ソイエールの街を歩いていると、観光客を満載した古い木製の電車が横を通り過ぎていく。

 

ソイエールの街、古い木製の電車が通り過ぎていく。