「嘘に隠された真実」
ドイツ語題:Die Wahlheit hiter
der Lüge
原題:Sanning med modifikation(修正された真実)
サラ・レーヴェスタム
Sara Lövestam
(1980年〜)
<はじめに>
イランからスウェーデンに来て、亡命申請中の若者、コウプランが、金に困って私立探偵業を始める。もちろん、経験はない。最初の依頼者は、娘が連れ去られたという母親。どうして警察ではなく自分に?と訝しく思いながらも、金に窮したコウプランは引き受ける。
<ストーリー>
ペルニラは六歳になる娘のユリアと、霧雨の中を歩いていた。
「まるで虫の群れのよう。」
ユリアは雨を喩えて言った。それがユリアの最後の言葉になった。
イラン人の青年、コウプランはインターネットに広告を出した。
「警察が役に立たなくても、私立探偵の私がお役に立てます。」
その広告を出した直後、コウプランはペルニラと名乗る女性からのメールを受け取った。
「娘がいなくなった。警察には言えない。探して欲しい。」
という内容だった。電話番号を教えるよう返信する。コウプランは、スウェーデンに来たものの、亡命の申請が認められず、スウェーデンに不法滞在していた。
ユリアが姿を消して、ペルニラは不安に駆られていた。何かをしていなければ居ても立ってもいられなかった。彼女は、グローベン・ショッピングセンターの人混みの中で、娘の手を放してしまったことを後悔していた。彼女は警察には連絡していなかった。彼女は私立探偵から、返信を受け取り、電話番号を連絡する。その後直ぐに、コウプランという男から電話があった。ふたりは報酬の額を決め、翌日、ユリアが消えたグローベン・センターで会う約束をする。
翌朝、ペルニラはどんな探偵が現れるのか、ドキドキしながらショッピングセンターで待っていた。現れたコウプランを見て、ペルニラは驚く。ティーンエージャーと見まがう男だったからだ。
「自分は二十八歳だが、遺伝子の病気で若く見える。」
とコウプランは説明する。病気は事実だったが、彼の実際の年齢から三歳ほどサバを読んでいた。ペルニラはコウプランの探偵としての経験について質問する。コウプランは、イランでは犯罪専門のジャーナリストで、スウェーデンで私立探偵を始めたと答える。
ユリアがいなくなった現場に着く。コウプランは当時の様子について尋ねる。細かい雨が降っていて、沢山の人が傘を差していたと答える。ユリアは行方不明になったとき、ピンクのレインコートを着ていたという。
ふたりはサンドイッチ店の「サブウェイ」に入る。コウプランは、
「子供の誘拐事件の際はまず親から疑え。」
ということをインターネットで調べていた。彼は、ペルニラにユリアの父親について尋ねる。父親のパトリックは、ユリアが生まれた後出て行ったきり、連絡がないと、ペルニラは答える。コウプランは、サブウェイの店員に、月曜日にピンクのレインコートの女の子を見たかったかと尋ねる。店員は思い出せないという。
「どうしてペルニラは警察に連絡しないのか、官憲に悪い思い出があるのだろうか。」
コウプランは考える。パルニラはコウプランに手付金を渡し、自分のサンドイッチも食べてよいと勧める。
ペルニラの回想。ユリアは幼い時から犬が好きだった。そして、六歳の誕生日、ペルニラは、ユリアを捨て犬センターに連れていく。ユリアは一匹の犬を気に入り、連れて帰る。ユリアはその犬をヤヌスと名付ける。
コウプランはレギーナという女性が息子と住むアパートの一間を借りていた。翌朝、彼はペルニラから貰った手付金の一部をレギーナに置いてアパートを出る。コウプランは、ユリアの父親パトリックに会いに行くことを決めていた。ペルニラによると、何かのコンサルタントをしている父親は、ユリアが生まれて以来、自分の娘に会っていないということであった。パトリックの住所を確かめ、若く見える彼は、寄付を集める高校生を装ってパトリックと話す。彼は、開いたドアから、パトリックの家を観察する。そこには、小さな子供のいる気配はなかった。
翌日の早朝、コウプランは、ウィキペディアで「人身売買」のリサーチを始める。彼はその後「インビス」(軽食堂)に出かける。彼は、同じイラン人のラシードに声を掛ける。ラシードは、「人探し」の名人と、イラン人の社会では有名な人物だった。コウプランは、ラシードにペルニラから貰った金の一部を払い、行方不明になったスウェーデン人の少女探しを依頼する。
ペルニラは、ユリアのパジャマを抱いていた。彼女は居たたまれなくなって、コウプランに電話をする。コウプランの声は、彼女を落ち着かせる。コウプランはパトリックを訪れたことを告げる。
「子供はいた?」
というペルニラの質問に、コウプランは、
「居なかった。」
と答える。コウプランはその答えに対して、ペルニラが安心したという印象を受ける。
月曜日の朝、ユリアがグローベン・センターから消えてから、ちょうど一週間が過ぎた。コウプランは再びショッピングセンターに行き、表通りに面したギリシア料理店、タイ料理店などで聞き取りを続ける。しかし、手がかりは何もない。ユリアのいなくなった十時半、その場所を訪れたコウプランは、誰かが木の陰に隠れていれば、周囲に気付かれず、人を待つことができることを知る。どの地下鉄の駅までも数百メートルの距離がある。その距離を、大勢の人の中を掻き分けながらユリアが連れ去るさることができたことから、コウプランは、ユリアを連れ去った男が彼女の顔見知りであると推理する。また、ペルニラがセンターに来ることは滅多になかったので、誘拐犯人は、二人の後をつけていたことが考えられた。その辺りを明確にするために、コウプランはペルニラを訪れる。
ペルニラを訪れたコウプランは、連れ去られたとき、ユリアが抵抗したり、大声をあげたりしなかったことから、犯人はユリアの顔見知りであるとの推理を、ペルニラに伝える。彼は、ユリアが知っている大人は誰かとペルニラに尋ねる。ペルニラは、図書館に良く行っていたので、ユリアは何人かの図書館員と顔見知りであったと答える。コウプランは、捜査のためにユリアの写真を欲しいという。しかし、ペルニラはユリアの写真は殆どないという。コウプランは、
「必ず誰かが目撃しているはずなので、明日もグローベン・センターへ行って、聞き込みを続ける。」
と約束する。
コウプランに、ラシードが電話を架けてくる。「MB」という男が、ストックホルムの人身売買に関与しているという。しかし、「MB」は謎に包まれた人物で、「鼻が大きくウィスキーを好む」それ以外のことは分かっていないという。コウプランは、「MB」の正体を突き止めようと決心する。
ペルニラはユリアの幼かった頃を回想する。ユリアが四歳の時、ふたりは森の中を散歩し、池の畔を歩いていた。そこへ大きな白鳥が寄って来る。ユリアは怯える。
「白鳥に連れていかれるかと思った。」
とユリアが言った。
「迷子になったら、『聖ソフィア教会』で会うからね。忘れないでね。」
と、ペルニアはユリアに念を押したことを思い出す。ペルニラはコウプランに電話をし、
「ユリアが『聖ソフィア教会』にいるかも知れない。」
と話す。ふたりは教会の前で落ち合う。教会は閉まっており、中に人影はなかった。ペルニラは、ユリアが小さかったとき、よくこの教会へ来たと話す。当時の担当牧師はトールという男だったという。
ペルニラの家に戻ったコウプランは、ユリア行方不明の、三つの可能性をペルニラに告げる。
@ 父親のパトリックの犯行
A 人身売買組織の犯行
B ユリアを知っている人物による犯行(牧師のトール、図書館員)
ペルニラは@の可能性についてはゼロだという。コウプランはこれまで一番気になっていたことをペルニラに問いただす。
「どうしてユリアは住民として登録されていなのだ。どうして、住民番号を持っていないのだ。」
彼は、インターネットでユリアの住民番号が見つからないことを知っていた。その質問に、ペルニラは大きく動揺する。ペルニラは自分が過去に精神的に問題があり、何度も自傷行為をしたこと、おそらく、子供を産んでも、母親不適格として、子供が取り上げられるであろうことを、コウプランに話す。そのため、ユリアを産んでから、それを公表せず、ずっと家で育てているという。
「福祉国家の中で、ユリアは存在しないことになっているのだ。」
とコウプランは、亡命申請が却下され、不法にスウェーデンに滞在し、警察の目から隠れている自分との共通点を感じる。
「秘密は人の精神を拘束してしまう。」
そう感じたコウプランは、ペルニラに自分の立場を正直に告げる。しかし、福祉局の人間がユリアを連れ去ったことは考えにくかった。
コウプランはパトリックに電話をする。
「ペルニラ・スヴェンソンが、就職のための推薦人として、あなたを指名した。ついては、ペルニラの人柄について知りたい。」
とコウプランは言う。
「これ以上俺の邪魔をするなと言え。二度と架けてくるな。」
と言って、パトリックは電話を切る。
次にコウプランは図書館を訪れ、ペルニラの写真を見せ、彼女を知らないかと尋ねる。しかし、覚えている職員はいない。次にパコウプランはグローベン・センターに向かう。アイスホッケーに試合があり、通りはどこもサポーターで一杯であった。コウプランはダフ屋に話しかける。彼は「MB」という名前と特徴を出す。ひとりのダフ屋が
「『MB』という名前は知らないが、鼻の大きな男が少女を連れているのを見た。」
と証言する。男は少女を脇に抱え、少女は泣いていたという。彼らはシェルマールブリンク駅の方に行ったと、ダフ屋は証言する。
少女は、
「ここは私の部屋ではない。この男は私のパパではない。」
と思う。その男は、自分は父親であると言い張るけれども・・・
コウプランは、シェルマールブリンク駅の改札係と話す。ユリアがいなくなった日、改札口にいた職員はそのときいなかった。
「同僚に聞いておく。電話をさせる。」
とひとりの職員が言うが、コウプランは彼が何もしないのを知っていた。
コウプランはペルニラを訪れる。彼女には、子供を失った母親の、衝撃、否定、希望、怒り、疑問、受容などが複雑に混ざり合っていた。コウプランは、兄がいなくなったときの母親の様子を思い出す。ペルニラは何時ものように、食事を作ってコウプランを迎える。ペルニラは、ユリアが実際の年齢以上に見えたと話す。コウプランは、ユリアの特徴や、彼女にまつわる事項を、細かく記述しておくようにペルニラに依頼する。
コウプランは、牧師トールを訪れる。トールは、ペルニラとユリアを知っていることは認めるが、細かい事情は、聖職者の守秘義務を盾に話すことを拒否する。コウプランが、
「あなたは、ペルニラを気に掛けていたのだろう。」
と水を向けると、牧師は、
「誰のどんな話も興味がありそうに聴くのが、聖職者の使命だ。」
と答える。コウプランは、ユリアがいなくなったことを聞いても、トールが少しも驚いた様子がないのに気付く。トールが何か知っていることを、コウプランは確信する。別れ際、トールはコウプランの手を握って、
「ペルニラの助けになって欲しい。」
と懇願する。コウプランは牧師の真意を測りかねる。
コウプランに、メリンダという女性から電話か架かる。彼女は地下鉄の改札係で、ユリアの消えた日、働いていた。
「大柄で鼻の大きな男が少女を連れて通り過ぎたのを見た。男は子供の扱いに慣れていないように思えた。」
と、メリンダは語る。男と少女は、地下鉄のヘーカレンゲン駅に向かっていったということであった。コウプランは、早速ヘーカレンゲン駅に行き、辺りの店の人間に尋ねるが、少女を連れた男に気付いた者は誰もいなかった、
コウプランは、ペルニラの態度が一番不審だと思う。彼がペルニラを訪れると、
「ユリアは死んだ。母親の直感で分かるの。」
とペルニラが言い出す。彼女はパニックになり過呼吸を起こす。コウプランは彼女を慰める。
「あなた、良い探偵でないわ。」
とペルニラが言う。コウプランはそれを否定しない。
「しかし、僕がもっと良い探偵になれるように、次の質問に答えて欲しい。」
と彼は言う。その質問とは、
「ユリアの生まれたとき、どんなことが起こったのか。」
と言うことだった。ペルニラは言葉を濁す。ペルニラは台所からワインを持ち出す。ふたりは飲み始める。結局、ペルニラは、コウプランの質問に答えなかった。
ペルニラは回想する。彼女はユリアを連れて、よくスカンセン野外博物館へ行った。ユリアが三歳くらいのとき、ユリアが言った。
「あそこにひとりのパパがいる。あそこにも。」
「パパが欲しいの?」
と、ペルニラが聞くと、
「欲しくない。問題を起こすだけ。」
とユリアは答えた。ユリアは大人のような話し方をした。ペルニラは、前年、パトリックという父親がいることをユリアに告げていた。
コウプランが気付くと、ペルニラの家のソファで眠っていた。彼とペルニラは前夜ワインを二本空けていた。コウプランは前日の問いが、未解決であることに気付き、
「ユリアの生まれたとき、どんなことが起こったのか。」
とペルニラに問い直す。
「何もない。あったとしても、ユリアの生まれる前の話で、娘とは関係ない。」
とペルニラは言い張る。コウプランは、
「トールがユリアの父親なのか。」
と更に問うが、ペルニラはその質問を一笑に付す。コウプランは、ユリアの写真を探すこと、気の付いたことをノートに書きつけることを引き続き依頼して、ペルニラの家を去る。コウプランは、ペルニラ、MB、トール、ユリアがどこかで関係していると確信していた。
電話が鳴る。ラシードからであった。
「MBの『走り遣いの若者』が、二時にインビスにやって来る。」
との連絡であった。
ペルニラは久しぶりにパソコンのスウィッチを入れる。ユリアは写真を撮られるのが嫌いで、写真は殆どなかったが、ペルニラの記憶によると、三枚はあるはずだった。ペルニラは、コンピュータの画像フォルダーを開けてみて愕然とする。ユリアの写っていた写真だけが消されていたのだった。
コウプランは、「走り遣いの若者」をインビスで待つ。やって来たのは、コウプランのたま二倍はあろうかという大男であった。店から出てきたその男をコウプランは尾行する。男はスポーツジムに入る。小一時間して出てきた男は、アパートの中に入る。コウプランもその後、中に入ることに成功する。コウプランは、男の乗ったエレベーターが十一階に止まるのを確認する。彼は、十一階の非常階段に座り、エレベーターを見張る。
少女は、逃げ出すことを考え始める、彼女は窓を開ける。窓の下には、薬局が見えた。彼女は薬局の男に向かって、叫ぶ。しかし、誰も上を見ない。父親と名乗る男がそれに気づき、彼女を引き戻す。少女は、母親が言っていたように、大声を出したり、逃げたりしなかったことを悔やむ。
コウプランは一晩中、非常階段に座っていた。自分はここで何をしているのかと、何度も自問しながら。彼は、十一階の住人の表札を確認していた。アジア系の名前を差し引くと「チャベツ」というのが大男の名前らしかった。朝になり、やっとチャベツが廊下に現れ、エレベーターに向かう。コウプランは非常階段を駆け下り、十回から同じエレベーターに乗ることに成功する。チャベツは地下鉄とバスに乗り、一見の建物中に入る。集合住宅であった。尾行を続けるコウプランは、向かいのレストランからその建物を見張る。窓越しにかすかにチャベツの姿が見えた。しかし、コウプランが小便に行っている間に、チャベツの姿は消えていた。彼は、ドアが開いたのを幸い向かいの建物に入り、チャベツがいたと思われる部屋の表札を確認する。「K・カールソン」と書かれていた。コウプランは疲れ果てて家に戻る。ユリア発見の手がかりは何も見つけられなかった。残ったのはペルニラが嘘をついているという確信だけだった。
ペルニラは、家からユリアの写真だけではなく、あらゆるユリアの存在を示すものが消えたことをコウプランに伝える。そして、ユリアを妊娠しているとき、産まれた子供を連れ去ると、福祉局から脅されていたこと伝える。コウプランは、ペルニラの記憶の中にある出来事を思い出させる。ペルニラは、独りで犬を散歩させているとき、公園で若い男性と会って、話していたことを思い出す。そして、その男とは、何時もユリアがいないときに出会ったという。ペルニアは、ユリアについて思い出そうとすると、記憶の中に欠落した部分があるように感じる。コウプランは、更にペルニラに過去の事実を思い出し、書き留めるように依頼する。
少女は、誘拐されたときにどうしたらよいのか、母親が教えてくれなかったことを不満に思っていた。少女の部屋に出入りする男は三人いた。父親と名乗る男、もう一人の男は言葉に訛りがあった。三人目の男は他の二人と英語で会話し、大きな鼻をしていた。その他に少女と一緒にアパートに住んでいるポーランド人の女性がおり、彼女たちは、少女に親切だった。父親と名乗る男は、
「おまえの母親と話して、おまえはこれから俺と住むことになった。『パパ』と呼んでごらん。」
と言う。少女は嫌々その男を「パパ」と呼ぶ。
コウプランは、他に手掛かりがないので、その日も、チャベツのアパートの前にいた。建物から出てきたチャベツを尾行する。チャベツは一軒のアパートに入り、まだ出てくる。チャベツは携帯で話し始める。同僚と話しているようだった。コウプランはその会話の中で、何回か「ボス」という言葉を聞く。チャベツは突然周囲を伺う。コウプランは慌てて一軒のコンビニに飛び込む。そこへチャベツも入って来る。見つかったと観念したコウプランだが、チャベツは彼を無視してまだ出ていく。
帰宅したコウプランは、チャベツの入っていったアパートの住人の氏名をインターネットで探す。住人の中に、モルガン・ビョルクという名前があった。コウプランはその男が「MB」ではないかと推測する。
翌朝、コウプランはペルニラからの電話を受ける。ユリアの写真や所持品を持って行った男がまた来るのではないかと思うと、心配で眠れなかったという、コウプランは、散歩中にペルニラが出会った若い男について再び尋ねる。ペルニラは、その男は親切で、ユーモアがあり、自分と波長の合う人間だったと答える。そして、犬の散歩の間、ユリアがアパートに独りでいて、電話やコンピュータを使ええたことを認める。コウプランは、最近架かってきた電話番号の一覧表を取り寄せるようにペルニラに言う。
ペルニラは記憶を辿りながら、八ページ半、ノートを埋めた。ユリアの父親はパトリック以外に考えられないとペルニラは確信していた。パトリックとは、産まれてくる子供の出生届を出さないというペルニラの考えを巡って対立、ふたりは何度も言い争った。彼女はパトリックに逃げ道を与え、パトリックは出て行った。
チャベツは苛立っていた。自分が尾行されているのを彼は知っていた。しかも、子供に。彼は、尾行を命じたのは「ボス」であると考えており、自分を信用していない「ボス」に腹を立てていたのだった。
コウプランは、「モルガン・ビョルク」が住んでいるアパートに、イラン人の苗字があるのを調べ、そのソーラビ家を訪れる。彼は、
「自分もイラン人で、行方不明になっている兄を探している。」
という口実でその一家を訪れる。夫婦と娘二人がいた。コウプランはさり気なく、その一家の隣人について尋ねる。上の住人に訪問者が絶えず、うるさいと、主人は文句を言う。コウプランはソーラビ家を辞し、廊下に出る。上に住む男が階段を降りてくる。その男は、大きな鼻をしていた。
少女には、食事に何時もハンバーガーが与えられていた。父親と名乗る男は、自分は一週間ほどいなくなること、その間に訪問者があることを少女に告げる。
不安にさいなまれるペルニラは、コウプランに来てくれるように言う。コウプランが訪れると、ペルニラは酒の臭いをさせていた。コウプランは、犬の散歩のときに出会った男についてもっと詳しく話してくれと言う。ペルニラはその男はグスタフという名前で、一度自分のアパートに呼んでコーヒーを飲んだことがあるという。彼女はグスタフと名乗る男に、ユリアの存在について話したことはないという。ペルニラは自分が書いたノートをコウプランに見せる。コウプランはそれを借りて帰って、詳細に読むことにする。
牧師、トールは自宅でアルバムの写真を見て溜息をついた。教会のカフェで撮られた写真にはペルニラが写っていた。奇妙な若い男が彼を訪れ、ペルニラについて質問してきたのは、彼にとって思ってもみなかった事態であった。そして、若い男に事実を黙っていたことに、良心の痛みを感じていた。同時に、もっとペルニラのためにやっていればよかったと、後悔していた。そして、自分はやるだけのことはやったのだと、自分に言い聞かせる。
コウプランは自宅で、ペルニラの手記を読んでいた。彼は十個の疑問を書きつけようと決心する。
「ペルニラはユリアが成長することを望んでいたのか。」
「ペルニラはユリアを誰から守ろうとしていたのか。」
等の疑問を彼は書いていく。コウプランの掴んでいる手がかりは「モルガン・ビョルク」の線だけだった。コウプランは何としてもビョルクが何者であるのか、何をしているのか洗い出さねばならなかった。同時に、ビョルクが中心であると考えれば、全てに辻褄が合った。コウプランは、ビョルクのアパートの前に立つ。向かいの建物の一階は薬局で、上は住居になっていた。彼は、誰かが出てきた隙に、向かいの建物に入ることに成功する。彼は、廊下の窓から、ビョルクの住むアパートを見る。そのとき、窓のブラインドの隙間から、女の子の顔が覗く。コウプランはそれを携帯で写真に撮り、ペルニラに送る・・・
<感想など>
「真実とは何か」を考えさせるストーリーである。
「真実はひとつなのか」
「ある人にとっての真実が、他の人には真実でないということがあり得るのか」
読後、そんな疑問を持つ話である。原題である「修正された真実」という言葉が何度も登場する。誰も、自分に不利なことは言いたくない。それで、真実を自分の都合の良い方向へ「修正」してしまう。特に、政治家はこれをよくやる。煎じ詰めれば「嘘」なのであるが、本人は「嘘をついた」という意識が希薄なのである。ドイツ語題の「嘘に隠された真実」というのも、なかなか的を得ている。
主人公のコウプランは、俄か私立探偵業を始め、最初の依頼者のペルニラから、行方不明になった娘の捜索依頼を受ける。調べていくうちに、彼はペルニラがどこかで嘘をついていることを確信する。どこまでが嘘で、どこからが真実なのか、そう考えながら、コウプランは一歩一歩「真実」へと近づいて行く。
コウプランは一年前、イランからスウェーデンにやって来た。母親はまだイランにいるが、兄はイランで行方不明になった。兄は政治的な理由で当局に抹殺され、その危険がコウプランに及んでいることが暗示されている。スウェーデンで亡命申請を出したコウプランだが、それは拒絶され、彼は不法滞在者となってしまった。警察に発見されると、強制送還の憂き目に遭ってしまう。警察を怖れながら生活している。
彼は年齢より若く見えるという設定になっている。二十五歳だが、ティーンエージャーに見えるという。彼はそれを「遺伝子の病気」と説明している。しかし、それは彼の武器でもある。相手の人間が「子供だから」と油断するからである。
「私立探偵」と言っても、コウプランは経験があるわけではない。イランでは「ジャーナリスト」だったと、彼は自分で言っている。何かにつけ、彼はゴミ捨て場から拾ってきたパソコンを使い、「グーグル」で調べる。彼の行動規範は「兄」である。
「こんな場合、兄はこうした。」
「こんな場合、兄ならこうするだろう。」
そう考えて彼は行動する。そして、その方向性は間違っていない。
作者のサラ・レーヴェタムは、一九八〇年、ウプサラで生まれた。幼い時から書くことが好きで、八歳のときに環境問題について書いた文章が既に新聞に掲載されたという。小説家になることは、早くから彼女の目標であったが、二〇〇九年のデビュー作「Udda(奇妙なもの)」で、見事Bok-SM賞に輝いている。また、この作品「Sanning med modifikation(修正された真実)」は、二〇一五年の、スウェーデン犯罪小説作家アカデミー新人賞を受けている。
この本のあとがきで、作者自身が語っているが、レーヴェスタムはコウプランというイラン人の主人公を、スウェーデン語を教えていた自分の生徒たちから思いついたという。言語に興味のある彼女は、移民、亡命者にスウェーデン語を教えるという仕事に永年携わってきたと書いている。移民、外国人から見たスウェーデンの気候、社会、文化等が、新鮮に描かれている。
イラン人の素人探偵が事件を解決するという結構奇抜な設定。もちろん、作者、無理は承知でその設定を取り入れたのだろうが、やはり、読んでいてちょっと無理があるなという印象。それを克服しつつ最後まで読むのに、ちょっとしんどい小説であった。
(2019年12月)