九十歳の挑戦
白い服の人で埋まった昨年サンタ・クルーズのカーニバル。
灯台と塩田を見た後、ホテルまで歩いて帰ることにした。次のバスは一時間半以上後だし。ホテルまでの距離は九キロとのこと、
「歩いたほうが早いし、辺りの様子がよく見えるし。その後のビールも美味いし。」
妻と僕は灯台を後にし、黒い火山灰で覆われた大地につけられた道を歩き出した。五百メートルほど言ったとき、お爺さんと若い女性がこちらへ向かって歩いてくる。
「オラー!(スペイン語でハロー)」
と挨拶をする。お爺さんは、片手で自分を指して、
「ヌエヴェンタ!」
と言った。スペイン語でヌエヴェンタは確か九十のはず。
「ええっ、このお爺さん九十歳なんやて。」
「こんなツ艶々した顔してはって、信じられへん。」
横の若い女性はきっとお孫さん。
「ホテルから歩いて来はったんですか。」
「シー。(はい)」
ホテルからここまでの距離は八キロ。普通一時間半はかかるだろう。(事実、結構アップダウンもあり、僕たちの足でさえ一時間四十五分かかった。)
「ガーン、このお爺さん八キロの道を歩いて来はったんや。」
「ウェルダン、エクセレント、もうちょっとやから頑張ってね。」
僕たちはそう言って、お爺さんとお孫さんと別れた。
数日後、妻と僕は林の中の二時間のトレッキングを終え、サン・アンデレスという町でビールを飲むことにした。そこはカラフルな家の並ぶ可愛い漁師町。地元のバーでは、日に焼けて顔中皺だらけの地元のおやっさんたちがゲームに興じている。
「あれ、あの人、ガトウィックで会った・・・」
妻が独りでビールを飲んでいる男性を指さして言った。僕たちは、その英国人の男性と奥さんと、ガトウィック空港のパブで偶然一緒のテーブルに座った。そして、何度もラ・パルマ島に来たことがあるという彼らから、色々と島に関する情報を仕入れたのであった。狭い島と言っても、彼とまた会うとは何たる偶然。彼に挨拶をし、一緒のテーブルでビールを飲む。
「サンタ・クルーズのカーニバルは素晴らしいですよ。」
とガトウィック空港で彼は言ったのを思い出す。そう言えば二月のヨーロッパはカーニバルの季節。仮装した人々が街を練り歩く時期である。
「カーニバルの日、サンタ・クルーズの街の人は、皆白い服を着るんです。白い服を着た人たちで溢れた町は美しい。」
彼は昨年撮ったという写真を見せてくれた。僕たちはそのカーニバルの風景を見るのを楽しみにしていた。しかし、それは月曜日。僕たちが英国へ発った翌日だった。残念・・・
カーニバルを前に、街では白い服を売っている。