妙心寺
妙心寺、退蔵院のしだれ桜。禅寺には珍しい華やかさ。
阪急電車に乗って楽しんだ二日後、今回は嵐電に乗った。嵐電は京都市内と嵐山を結ぶ小さな電車である。一両か二両のチンチン電車が、ノ〜ンビリと走っている。僕はその日、北野線に始発の白梅町から乗った。この線、一両の電車が、白梅町と帷子ノ辻(かたびらのつじ)の間を結んでいる。嵐山へ行くには、そこで乗り換えて、四条大宮から来た電車に乗り換えることになる。北野線は、営業キロわずかに四キロ。歩いても一時間かからない距離を、十五分ほどでつないでいる。しかし、このわずかな距離の沿線に、等持院、竜安寺、妙心寺、仁和寺などという観光名所が詰まっている。
その日、僕は高校の同級生のYさんと、妙心寺を訪れた。白梅町で待ち合わせ、妙心寺道まで先述の嵐電に乗る。三つ目の駅で降りて、五分ほど歩いて、妙心寺の境内へ。妙心寺を訪れるのは初めて。京都で産まれ育って、たまに京都に帰っても、結構マメに京都観光をしている僕だが、妙心寺には来たことがなかった。二日前に、東本願寺にも、初めて行ったし。
「京都は奥が深い。」
本当に、京都は行き尽くすことができないほどの、名所がある。
妙心寺北門から境内に入る。
「大徳寺に似ている。」
と最初に思った。大徳寺は、僕の実家のすぐ近くにある禅宗のお寺。小さい時からの遊び場でもある。妙心寺は、大徳寺と同じように結構規模が大きい。どちらも臨済宗、「塔頭」という小さいお寺の集合体で、ひとつひとつの塔頭も粒ぞろいの感じがする。大徳寺も、妙心寺も、観光客に、超有名でもない。
Yさんのお勧めの退蔵院に入る。枯山水の庭園があるが、しだれ桜が美しい。枯山水というちょっと地味な庭園の中にある、派手なしだれ桜。そのギャップが面白い。庭を見ながらいただくお抹茶も最高。何よりもよかったのは、ほどほどに有名なお寺なので、観光客がそれほど多くなく、落ち着いた雰囲気だったこと。門前の、「萬重」というレストランで、昼食。彩がきれい。目で楽しみ、次に舌で楽しむという料理の王道を行くものだった。
嵐電は、「桜のトンネル」を抜けるので有名。しかし、その日は、満開から一週間ほど経っており、残念ながら、葉桜のトンネルになっていた。帰りの電車は、ラッシュアワーのように混んでいた。乗客の半分は、外国人観光客。ほとんどの人が、二つ目で降りて、電車はほぼ空になった。
「あれっ、この近くに、観光名所あったっけ?」
と、僕はYさんに聞く。
「そうねえ、龍安寺くらいしかないけど。」
とYさん。ここでサラッと、「くらい」と言ってしまうのが、いかにも京都の人らしい。龍安寺があれば、それで十分だと思うけど。
妙心寺北門前「萬重」のメニュー。目で楽しみ、舌で楽しめる。