有馬温泉

 

これが純日本的な旅館の部屋。ここでご飯を食べ、布団を敷いて寝るだ。

 

伝統的な銭湯、近代的なスーパー銭湯と続いた「お風呂シリーズ」。最後のメインイヴェントは日本の「温泉地、スパリゾート」有馬温泉訪問。

今回日本へ帰ったら、母を連れてどこかへ小旅行に出かけようと思っていたの。どこへ行こうかなって。母も元気とは言え、もう結構な歳だし、余り遠くへ行っても疲れるだろうし。それで、神戸の近くで、片道二時間くらいで行けそうな有馬温泉を目的地にしたわけ。有名な場所だけど、僕も行ったことなかったし。日本人にとって、温泉地を訪れて、お風呂に浸かって、美味しいものを食べて、リラックスするってが、一番一般的なレジャーかな。そんな温泉地が日本には沢山あるだ。有馬温泉は、京都、大阪に住んでいる人たちにとって、一番近い温泉地だと思う。僕は日本へ発つ前に、インターネットでホテルとかバスを予約しておいた。

この有馬温泉、日本では最も古くから知られた温泉で、何と八世紀に書かれた文献にも登場するだって。「落語」にも、この温泉を舞台にした話があるよ。ある失業中の男が、有馬温泉で新しい商売を始める。二階に泊まっていて、階下のトイレに降りて来るのが面倒な人のために、竹の筒を使って、二階からおしっこをさせるという珍商売。男の人は、その筒に、自分の物を差し込んで用を足せるから問題ないけど、女性の客には困った。上手に筒の中におしっこが入らなくって、飛沫がいっぱい飛んでくる。

「漏斗(ファネル)を持ってきたらよかった。」

というのが結末。

 昔は、温泉地に長く滞在する人が多かっただね。と言うのも、レジャーだけじゃなくて、温泉には病気を治す効果があったから、療養に来る人が多かったの。今でも、温泉地には、

「うちのお湯は、こんな病気に効果があります。」

という表示がしてある。筋肉や関節の病気だけでなく、内臓の病気にも後悔があるだって。ヨーロッパのようにお湯を飲むじゃないよ。お湯に浸かるだ。反対に、

「お医者様でも有馬の湯でも惚れた病は治りゃせぬ。」

なんて言葉もある。つまり、どんな病気にも良く効く有馬のお湯も、若者の「恋の病」だけは治せないってこと。

 金沢から帰った翌日、僕は母と連れ立って阪急電車で京都を発ったの。四十五分ほどで大阪の梅田というターミナルに着いた。そこから高速道路を走るバス、英国では「コーチ」って言うよね、で有馬温泉へ向かったの。「母を連れて有馬温泉へ行きます」って、メール書いたら、行ったことがある日本の友人たちから、あそこのホテルが良いとか、こうやって行くと便利とか、色々なアドバイスが届いたの。高速バスで行くのが便利だってことも、友人に教えてもらった。そして、確かに便利だった。大阪を発ったバスは、四十五分後にはもう有馬温泉に到着。

 有馬温泉は山に囲まれた場所だった。もっとこじんまりした場所かと思ってたけど、結構大きくて近代的な高層建築のホテルがあるので驚いた。僕たちの泊まる「やまと」ってホテルは、伝統的な日本の旅館とのこと。母とふたりでえっちらおっちら坂を上っていくと、右側にドイツの「ノイシュヴァンシュタイン城」みたいな形のホテルがあった。何と派手な。僕らの泊まった旅館は、それとは正反対、しっくりした日本式の建築だった。よかった。

 

有馬温泉の町。浴衣を着て、下駄をはいて散歩したかっただけど、ちょっと寒すぎた。

 

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