ハッチョンが悪い
三々五々中学校に集まって来る昔の同級生。(ホリケン撮影)
九月二十二日、日曜日、中学校の同窓会があった。場所は母校。中学の同窓会は、何と何と、毎年開かれているのである。幹事の皆様には本当に頭が下がる。昨年も同窓会のことをエッセーに書いたが、僕の中学校の同窓会はとってもユニーク、「授業」があり、「ホームルーム」があり、「給食」の時間があり、「課外活動」の時間がある。
さて「授業」だが、中学のときに教わった先生方においでいただき、もう一度「授業」をやっていただくという趣向。先ほど幹事の話が出たが、幹事のうち二人は東京在住だという。そのふたりは先生方への「出演依頼」のために、わざわざ東京から京都まで新幹線で出てきてもらっているとのこと。同窓会というのは、そんな人々の努力の上に成り立っているのだ。この場を借りて幹事の皆様にお礼を言いたい。
今年は、S先生の授業。S先生は、僕の中学一年の時の担任。英語の先生である。先生は現在京都文化博物館で、外国人の訪問者を案内するボランティアをやっておられる。今年の「授業」の内容も、「京都の歴史を英語で紹介したらどうなるか」という内容だった。聴いている「生徒」は四十人弱。僕の中学は一学年が三クラスしかなく、全員でも百三十人しかいなかったので、結構高い「出席率」だと思う。
僕は現在、職場で英語を話している。そして、その基礎を中学生のときにS先生に教わったわけだ。しかし、考えてみると、職場で話す英語は中学二年生までの文法で十分なような気がする。もちろん、語彙は沢山知っていないと、専門的な話ができない。しかし、構文は中学二年程度で十分。だって、それ以上難しい表現を使っても通じないもの。「時制の一致」、そんなの気に掛けている輩は僕の職場にはいない。特に僕の職場は「多国籍軍」。ロサンゼルスの法律事務所で、僕よりはるかに高度な英語を使って仕事をしているユーコは、
「S先生の発音ってあんなに日本語のアクセントが強かったかしら。」
なんてことを言っている。でも、きっと当時は素晴らしい発音に聞こえのだ。今、そう聞こえるのは、あなたがそれだけ進歩した証拠。
進歩してないのは僕。S先生は「発音」のことを「はっちょん」と言われた。僕は当時から英語式の発音が苦手、
「カワイくん、そんな『はっちょん』ではペケですね。」
と言われたものだ。
僕の発音がいかにひどいかの例がある。僕が「英国の水仙」についてのエッセーを書いた後、読者のどなたかから、
「まさにワーズワースの世界ですね。」
という感想をいただいた。ワーズワースの詩「水仙」を読んだことがまだなかった僕は、ロンドンの一番大きな書店へ「ワーズワースの詩集」を買いに行った。
「ワーズワースの詩集(Wordsworth’s
poems)ください。」
と店員に言ったら、しばらくして店員の持ってきた本が「世界最悪の詩集」(World’s worst poems)。いくら何でも、そこまで・・・僕の心の中に、S先生の言葉が響いた。
「カワイくん、そんな『はっちょん』ではペケですね。」
授業を「熱心に」聴くかつての生徒たち。(ホリケン撮影)