四十年前の妻の写真
いましたねえ。まさかここであなたに会えるとは。
「こんなことがあるの〜。世間って広いようで狭い。」
僕は妻の写真を見て、絶句してしまった。
その夜、僕は金沢のK先生のお宅にいた。話の中でK先生の奥様が、妻と同じ高校の卒業生であることが分かった。そして、奥様と妻は同い年だということも。奥様が、金沢二水高校の卒業アルバムを持ち出し、開けてみると、そこに妻の四十年前の姿が載っていた。
「あなた、ソネちゃんの旦那さんやったんやね。」(曽根は妻の旧姓)
奥様も、僕の妻を知っていると言う。しかし、この夜、ここで妻の写真に出会うことは、意外も意外な展開だった。
昨年、日本に手術のために戻っていた時、一か月くらい、手術の待ち時間があった。そのとき、知り合いのSさんが、
「金沢大学のK先生が、大人のためにドイツ語教室をオンラインで開講しておられるから、参加してみない?」
と誘ってくれた。暇だったので、二週間に一度のその授業に出始めた。K先生は僕が金沢大学の独文科の学生のころ、若いドイツ語の先生だったが、既に定年を迎えられ、今は名誉教授をしておられる。「生徒」は僕とSさんを入れて、何時も四人。その後英国に戻ることになったが、それからもずっと、オンラインで授業に参加していた。毎回「宿題」が出る。それがなかなか難しい。新聞の記事や論文などが多く、独文科出身の僕でも、予習に三時間近くかかっていた。残りの三人も、毎回きちんとテキストの内容を理解しておられる。
「おぬし、できるな。」
って感じ。 さて、六月の授業の最後に、七月の予定を決めた。その時、七月二十二日が授業日になった。
「その日、僕、金沢にいます。」
と言うと、先生と他のメンバーが「カワイ君帰国記念飲み会」を企画。場所はK先生のお宅。普段オンラインでしか会ったことのない「同級生」と会うのをとても楽しみにしていた。
継母とフランス料理を食べた日、僕はマンションを引き払って、生母の家に移った。そして、二日後の昼前に、京都を発って電車で金沢に向かう。飲み会の料理は持ち寄りだと聞いていたので、京都駅前のデパ地下で、ドイツ製のハムとフランス製のチーズを買った。
午後二時半ごろに金沢に着き、バスで妻の実家に向かう。そこで、義母と三年ぶりの再会を果たし、六時過ぎにタクシーでK先生のお宅に向かった。皆さん、二週間に一度スクリーンで顔を合わせている仲。それでも、思わず、
「はじめまして。」
と挨拶してしまう。でも、皆さん、それまで僕が抱いてきたイメージとピッタリで、全然違和感はなかった。宴もたけなわになった頃、「卒業アルバム事件」が起きたのだった。
K先生と四人の弟子たち。