おくりびと

おくりびと」の一シーン。広末涼子が別の意味で初々しい。

 

今回は十八日間も日本に居た。最初の会社を辞めて次の会社で働く前、一ヶ月のギャップを作って、そのときに十八日間帰国したことがある。それと「タイ記録」。今回は、見逃した日本映画を見てみようと思っていた。それで、大徳寺門前のレンタルDVDショップの会員になる。今回は住民登録をして、保険証を持っているので、全然問題がないのだ。

最初に「おくりびと」と「瀬戸内少年野球団」を借りた。「おくりびと」を生母と一緒に見る。これだけ有名で、アカデミー賞まで貰った作品を今更と言われるかも知れないが。でも、なかなか面白かった。特に、主人公の納棺師の妻を演じる広末涼子が初々しくてよかった。彼女をこれまで余り好きだとは思わなかったが、この映画を見て好きになった。最初は「納棺師」という夫の新しい職業を知って嫌悪するが、最後は誇りを持って、

「私の夫は納棺師です。」

と叫ぶシーンが心に残る。

「瀬戸内少年野球団」は、一九八四年の映画。当時見たかったのだが、封切りほぼ同時にドイツ赴任が決まり見ることが出来ず、結局今まで見る機会がなかった。(海外に住んでいると、日本の映画を見るのは結構大変なのだ。)夏目雅子の主演。これは姪の赤ん坊を見に、彼女の住む近江八幡へ行く道中、ポータブルのDVDプレーヤーで見た。好意を持っていた男の子なのに、自分のおしっこの音を聞かれたというだけで嫌いになってしまう乙女心が面白い。

 というわけで、僕は十八日間の日本滞在を終えて、英国に戻ることになった。鹿児島へも行ったし、金沢へも行ったし、紅葉も見たし、親戚の皆様にも会えたし、あちこちでご当地ソングも唄ったし。いつも世話になっている生母に多少の恩返しもできたし。なかなか「中身の濃い」日本滞在だった。

リハビリに励む父の姿には一種の感動を覚えた。人間、「生きている」、いや「生かされている」限りは、頑張り続けなければならないのだ。そして、父を独りで看病する継母には、本当に悪い気がする。たまに帰るだけで、何もお手伝いできない自分に、歯痒さを感じる。

日本を発つ前夜、僕は何時ものように銭湯、「船岡温泉」へ行った。毎日同じ時間に銭湯へ行くと、同じ人に出会う。例えば、隣の「オカノ米穀店」の大将とか。僕は、いつも出会う、石川県出身の植木屋の兄さんと顔見知りになった。彫りの深い顔立ちの青年で、僕は最初彼を外国人かと思った。ふたりで露天風呂に浸かりながら話をする。その植木屋青年は言う。

「僕は絶対、国連にも銭湯を作るべきだと思いますよ。首脳会議の際など、皆、銭湯に入って裸で話し合ってもらうんです。これで、世界情勢は一変すると思いますよ。」

僕はドイツの首相、アンゲラ・メルケルが女性であることを思い出した。彼女はどうするんだろう。

「でも、ドイツではサウナに男も女も一緒にスッポンポンで入るんだよな。」

そんなことを考えながら、僕は植木屋青年と仲良く湯に浸かっていた。

 

もうすぐ到着。飛行機が高度を下げると、眼下にロンドンの街の灯が広がる。

 

<了>

 

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