スチュワーデスの謎
エールフランス機のキャビンアテンダント、すごくピッタリとしたスラックス。
「ラッキー!」
僕は叫んだ。パリ行きの飛行機の席は非常口の横、スチュワーデスが離着陸の際に使うジャンプシートの向かいで、足元には十分すぎるほどの空間がある。
席に着き、僕はD君にもらった睡眠導入剤を一錠飲んだ。先ほどの熱燗一合とあいまって、眠気が僕を襲う。僕の席の斜め前方には、食事などを用意するギャレーがあって、フランス人と日本人の「女性客室乗務員」が出たり入ったりしている。僕は半分眠りながらそれを見ていた。
不思議なことに気がつく。新たな謎が湧き上がる。スチュワーデスさんたちは皆タイトスカートかすごくピチッとしたスラックスを身に着けておられる。彼女たちが屈んだとき、フランス人のスチュワーデスのお尻には下着の線が浮かび上がらないのに、日本人のスチュワーデスのお尻には下着の線が出るのだ。何故だろう。気になる。しかし、そんなことをもし聞いたら、ハラストメントで、シベリア上空で飛行機から放り出されそう。いや、それはないにしても、パリで警察に引き渡されそう。今はやめておいて、家に帰ってから妻に相談することにする。
一眠りをして眼を覚ますと、出発してから五時間経っていた。まだ六時間の飛行があるので、薬をもう一錠飲む。次に目を覚ましたときは、ラトビアの上を飛んでいて、ぼちぼちキャビンアテンダントが着陸の準備をしだした。機内では全然何も食べなかったけど、(眠っているので食事のとき無視されていた)空腹は感じない。
パリのシャルル・ド・ゴール空港に降りてから、周囲を見回してティエリーを捜したが、もう見つけることはできなかった。僕はロンドン行きの搭乗口に向かう。日本を発つ前、生母に特に注意されていたのは、
「パリで眠ったらあかんよ。」
と言うこと。乗り換えの際、長旅の疲れと寝不足と、
「ここまで来た、もうあと少し。」
という安心感で、いつもついつい眠ってしまう。一度など、フランクフルトで乗り継ぎ便に遅れたことがあった。
「何度もお名前は呼びました。」
と、航空会社の人は言うのだけど、グースカ八兵衛で眠っていて、全然聞こえなかった。
今日はインターネットコーナーで会社のメールを読むことにする。仕事をしていれば眠ることはないだろう。
午後七時のロンドン行きに乗り、薬がまだ利いていたのか、その飛行機の中でも眠って過ごし、気がつけばロンドン。マユミの出迎えを受けて、彼女の運転する車で帰宅した。帰宅すると九時半。翌朝は、また五時半起きで仕事だ。また眠る。
パリ、シャルル・ド・ゴール空港の日没。長い、三十三時間もあった日も終わろうとしている。