ウニと太秦広隆寺

 

このインテリア、この盛り付けだとどうもイタリア料理を食べている気がしない。

 

前菜の盛り合わせはフォアグラ、カニとなめこの和え物、ゴボウスープ。フォアグラを食べるのは、十年以上前、某航空会社の手違いで、ビジネスクラスが満員だったため、ファーストクラスで旅をして以来だ。先ずは、例の謎の解明からいかねばなるまい。

「ねえねえ、巫女さんのバイトやってるのん、ユメちゃん、ツキちゃん、どっち?」

と僕が尋ねる。イズミは笑い出し、

「そんなん、ユメちゃんに決まってるやん。ツキちゃんみたいな巫女さんが出てきたら引くで。」

「そんでも、お母様はツキちゃんって言うたはったけど。」

「母さん、しょっちゅう孫の名前を間違えるねん。」

こうして、謎はまたあっさりと解けた。

その後パスタが出てきたが、僕はウニ入りのパスタを注文。結構の量のウニがホワイトソースで和えた細いスパゲティーの上にドカッという感じで乗っており、ウニ好きの僕にとってはなかなか嬉しいメニューである。

デザートは西京味噌入りの生キャラメル。全てが直径五センチ以下の入れ物に入っており、チマチマという感じで、イタリア料理というより精進料理を食べているような気がずっとしてした。

食事の最中、八十五パーセントはイズミが話していたようだ。彼女の生活がとにかく忙しいことに驚く。そして自分の生活が、彼女と比べれば、考えられないくらい余裕のあるものであることに、改めて感謝をしなければならないと思う。

三時前に店を出て、彼女の車で嵐電の嵐山駅まで送ってもらう。嵐電の駅前で例によってハグをして彼女と別れる。僕はそのまま同じ道筋で家まで戻る予定でいた。しかし、電車が太秦(うずまさ)広隆寺の前で停まったとき、気が変った。

「太秦〜、広隆寺、映画村前〜。広隆寺の弥勒菩薩は日本の国宝第一号です。」

とアナウンスが入る。

「このお寺はまだ入ったことがないぞ。」

それに、あの有名な、切手にもなった弥勒菩薩が国宝の第一号だったとは。僕はあわてて降りる。そして、広隆寺の中に入ってみた。

弥勒菩薩だけでなく、広隆寺には、国宝、重要文化財級の仏像がゴロゴロしていた。片側に並んでいる「十二神将像」これも国宝なのだが、どう数えても十四体ある。

 入り口のおじさんに、

「なんで十二神将なのに十四体あるんですか。」

と聞いてみると、

「皆さんよう同じことを聞かはります。両側にいてはるのは四天王ですがな。」

とのこと。なるほど。聞いてみるだけのことはある。

 

太秦広隆寺の前で予定外に電車を降りる。

 

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