アンクル・トーマス

 

「アンクル・トーマス」の劇中劇。これがアメリカのシーンなんだって。

 

このミュージカルには「劇中劇」が登場する。英国の新聞に、自分のことが「野蛮人」、「バーバリアン」と書かれているのを知った王様は、英国人に自分が「野蛮人」でないことを見せるにはどうしたらよいのかを考える。

「俺が何を考えているか、あんたなら分かるだろう?当ててみなさい。」

と言って、実際にはアンナに考えさせるのであるが。

おりしも、英国の大使がバンコクを訪れることになっていた。大使に、西洋文明を大いに取り入れた宮廷を見せて、「野蛮人」というイメージを払拭しようと、王様とアンナは計画する。まず、女性たちに西洋風のドレスを着せようとする。直径が二メートルくらいある、釣り鐘型のスカートだ。下に枠が入っている。実際当時の女性はあんなものを見に着けて、よく生活できたと思う。王様が視察に現れ、皆がスカートをはいたまま地面に平伏し、スカートの中身が丸見えになるというシーンもあった。

英国大使接待の「メインイベント」は、大使に見せる演劇である。その題材がストウ夫人の名作「アンクル・トムの小屋」。「奴隷解放」をメッセージにした劇をやることで、シャムの近代化への意識の高さを見せる、これはなかなか名案だと思う。それで企画されたのが「アンクル・トーマスの小さな家」の劇である。しかし、場所は十九世紀のシャムの宮廷、誰も黒人を見たこともないし、アメリカ合衆国がどんなのか知らない。皆は、自分たちの知っている範囲の知識を駆使し、足らないところは想像力で補って、「黒人」、「アメリカ」というイメージを作っていく。作られたものは珍妙と言えば珍妙である。

「『アンクル・トムの小屋』ってこんな話しだったっけ。」

と僕も一所懸命はるか過去の記憶を手繰る。

「待てよ、よく考えてみると、僕自身、多分同じようなことをこれまでやってきたし、また今後もやることになるだろう。」

僕は考え、身につまされた。つまり、限られた知識で自分のイメージを作ってしまい、それが実際と大きくかけ離れているということ。よくある。

「アジア人ならきっとこんなイメージを持つだろう。」

と西洋人が知恵を絞って作った西洋の世界は、実際面白かった。つまり、アジア人の想像するような西洋を西洋人が想像し、それをアジア人である自分が見ているという、メチャ入り組んだパターン。そう言えば、シェークスピアの戯曲には、女性が男性の振りをしているというパターンがよくある。最後は「彼は」女性であることがバレる。しかし、シェークスピアの当時は、歌舞伎の女形のように男性が女性を演じていた・・・

「ああ、メチャややこしい!」

それに似た混乱だと思った。

 

子供は一応60人から70人いることになっているが、舞台に出て来るのは十数人。子役はダブルキャスト、一日交替で舞台に立つ。

 

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