「世界を救うために戻って来た百歳の男」

原題:Hundraettåringensom tänkte att han tänkte för mycket.

(自分が考えすぎだと思った百一歳の男)

ドイツ語題:Der Hundertjährige, der zurückkam, um die Welt zu retten.

2018年)

 

         

<はじめに>

 

この本の前書きでヨナソンは、「百歳老人」の話は前回で終わりするつもりで、続編を書く意思はなかったと述べている。しかし、ヨナソンは、世間の期待を無視できず、続きを書いてしまった。前回は、トルーマン、スターリン、チャーチル、毛沢東、金日成等、二十世紀の歴史上の重要人物の総出演だったが、今回は、どのような有名人が登場するのであろうか・・・

 

<ストーリー>

 

アラン・カールソンとユリウス・ヨンソンは、前回の事件で、大金を手に入れ、バリ島のホテルで優雅な暮らしを送っていた。金のあるアランは、島を訪れたハリー・ベラフォンテと知り合い、彼の歌を聞く。アランはハリーが黒いタブレット型コンピューターを持っているのに気付く。タブレットに興味を持ったアランは、自分も購入する。タブレットの使い方を学んだハリーは、世界中の各地の色々な情報を、居ながらにして知ることができるようになる。

アランとユリウスの使う一方の生活、そろそろ金が底を尽きていた。ユリウスは、インドネシアでアスパラガスを栽培し、それをスウェーデン産と偽って、高く売りさばく計画を立てていた。そんな中、アランが百一歳の誕生日を迎える。ふたりは、熱気球を借り、空の上で、誕生日を祝おうと考える。ふたりは気球のパイロットより先に、気球に乗り込む。ケーキとシャンペンを持って。ユリウスはケーキに火を点けようとするが、その熱で気球が地上を離れてしまう。気が付いたパイロットが駆け寄ったときにはもう遅く、気球はアランとユリウスと乗せて、空高く舞い上がっていた。

ふたりを乗せた気球は、どんどんと陸を離れて行く。ユリウスは気球の高度を下げようとするが、今度は、気球が熱を急速に失って、海へ向かって落ちて行く。海に落ちた気球の籠は、ふたりを乗せ、波間を漂う。アランは、気球に、信号弾があるのに気付く。ユリウスは、信号弾を発射する。

北朝鮮の貨物船が、インド洋を航海していた。表向きは木材の運搬だが、実際の任務は、核兵器開発ために、マダガスカル沖で、コンゴ産のウランを受け取り、それを北朝鮮に持ち帰ることだった。船員が、信号弾が上がっているのを発見する。船長のパクは、後々問題になるのを恐れて、救助に向かうことにする。船は、アランとユリウスを引き上げる。船長のパクは、救助した二人を尋問する。二人は船長が、自分たちに好意的でないことを知る。アランは、かつて北朝鮮の指導者だった、金日成と懇意にしていたことがあり、彼の息子の、金正日も知っているという。そして、自分は、核兵器開発の専門家であるという。これはかなり大風呂敷であった。彼は、事実、第二次世界大戦の末期アメリカにおり、トルーマンに協力し、原子爆弾の起爆装置の開発を助け、大統領から「愛国者勲章」を貰ったことがあった。しかし、それはもう半世紀以上も前のことだった。パク船長は、本国に二人の男性を救助したこと、そして、ひとりは核兵器の専門家であると打電する。彼はアランをスウェーデン人ではなく、間違ってスイス人と報告してしまう。その頃、北朝鮮の若い指導者、金正恩は、核兵器の開発が思うように進まないので焦りを感じていた。彼は、スイス人の「核兵器の専門家」が自分の国へ向かっていると聞いて、期待を持ち始める。彼は、船が着き次第、アランを自分のところに連れて来るように命じる。

アランとユリウスを乗せた貨物船が北朝鮮に到着する。二人は、金正恩の下に連れて行かれる。アランは、自分が核兵器開発の専門家であると、指導者にも吹聴し、ユリウスを自分の助手だと紹介する。時を同じくして、国連の視察団の代表として、スウェーデンの外務大臣、マーゴット・ヴァルストレームが北朝鮮に到着する。金正恩は、ヴァルストレームとアランを連れて、記者会見に臨む。そして、

「スウェーデンの科学者の協力を得て、我が国の核開発は大きく進むだろう。」

と述べる。

金正恩は、アランに核開発研究所の所長と引き合わせ、翌日から、研究所に出勤し、その所長と共同作業を進めるように命じる。アランとユリウスは、自分たちの化けの皮が剥がれる前に、何とか北朝鮮を脱出しなければならないと考える。ヴァルストレームは、アランとユリウスがスウェーデン人であることを知り、二人を北朝鮮から脱出させようとする。彼女は、二人に外交官パスポートを用意し、二人に空港に来るように言う。研究所の職員を騙して脱出した二人は空港に現れる。二人は核兵器研究所からスーツケースを持ち出していた。中身は、アフリカから北朝鮮に届いたばかりのウランであった。アランとユリウスは、同じスーツケースを調達し。すり替えていたのだった。

 トランプ大統領はテレビを見ていた。そこには、北朝鮮の金正恩の記者会見の模様が映し出されていた。トランプは、そこに国連の代表として北朝鮮を訪れていた、スウェーデン外相と、北朝鮮の核開発に協力しているというスイス人が同席しているのを見る。激怒したトランプは、ヴァルストレームに、スイス人を連れて、自分の下に出頭するように命じる。

アランとユリウスを乗せた、国連の特別機は、ワシントンに到着する。ふたりはヴァルストレームと一緒にトランプを訪れる。アランは、手土産に、北朝鮮から持ち出したウランをトランプに渡すつもりだった。アランは、自分は北朝鮮に協力したのではなく、北朝鮮の核開発の妨害をしたのだと大統領に話す。しかし、トランプは信じない。アランはトランプのことが好きになれない。ヴァルストレームは、ドイツの国連大使、コンラート・ブライトナーにアランとユリウスの世話を頼む。ブライトナーは二人を食事に連れ出し、三人は意気投合する。アランは、持ち出したウランを、ドイツに贈ることにする。彼は、ブライトナーがトイレに行っているすきに、紙ナプキンにアンゲラ・メルケル首相宛の手紙を書き、ウランの入ったスーツケースのポケットに入れる。ブライトナーはそれを受け取り、二人をスウェーデンに帰す段取りをする。

アランとユリウスはストックホルムに到着する。彼等は一文無しであった。ふたりは、バリ島で、偽スウェーデン産のアスパラガスのビジネスパートナーだった男を訪ねていく。しかし、その事務所は閉鎖されていた。歩いているうちに、ユリウスの靴擦れがひどくなり、二人は近くにあったスーパーマーケットに入る。アランは、マーケットの経営者の女性に、

「金は明日払いに来るから、絆創膏を売って欲しい。」

と頼むが、最初はもちろん拒否される。しかし、その女性は、ザビーナ・ヨンソンは、途中で考えを変え、彼らに宿を提供する代わりに、ふたりに自分のビジネスを手伝わせようとする。彼女は、数年前に、祖母の遺産を得たのを機会に、スーパーを開店する他に、自分のビジネスを始めていた。それは「棺桶の製造販売業」だった。

 ユリウスは、ザビーナの会社で、経営手腕を発揮する。彼は、次々と斬新な棺桶を開発し、三人はそれを持って、シュツットガルトで行われた旅行業界のメッセに参加する。彼らの棺桶は、ヨーロッパ中からの注文を受けるようになる。

 一人のネオナチの男が、兄の葬儀のために、ハーケンクロイツや右翼のメッセージを描いた棺桶を、ザビーネの会社に注文する。同時に、会社は、亡くなった小学生のために、ウサギを描いた棺桶の注文を受ける。配達の当日、手違いで、二つの棺桶は間違った住所に配達されてしまう。ハーケンクロイツの棺桶を注文した右翼の大物は、怒り狂い、復讐をするために、ザビーネの会社に向かう。それを感じ取った三人は、棺桶を積んだ車で逃げ出す。三人が逃亡先に選んだ場所は・・・

 

 

<感想など>

 

今回も、世界の有名人総出演である。米国のトランプ大統領、ロシアのプーチン大統領、北朝鮮の金正恩主席、ドイツのアンゲラ・メルケル首相・・・物語の書かれた二〇一八年当時の、大物政治家のオンパレードである。そして、今回も、舞台は、インドネシア、北朝鮮、米国、スウェーデンと、世界中を動いていく。そして、今回、百一歳になったアラン・カールソン老人が、思い付きの、一見的外れな行動をしながら、実はそのせいで、結果的には世界を救ってしまう。まあ、前作のお約束事をそのまま踏襲しつつ、しかし、それがゆえに、安心感のある笑いを読者に提供してくれる。

余りにも、飛躍したストーリー、現実離れした設定について行けないと、ヨナソンの小説を好きになれない人が数多くいる。私の娘もその一人だ。しかし、ヨナソンは、そのような批判に対して、完全に開き直っている。

「それなら、もっと飛躍したストーリーと、現実離れした設定の物語を書いてやろうじゃないの。」

という、彼の強い意志というか、意地を感じ取ることができる作品である。

 今回のアランの武器は、何と言っても、タブレットコンピューターであろう。彼は、百歳にしてパソコンの使い方を習得、全世界で起こっているニュースをいち早く知ることができるようになる。彼は今回、前作のように、本能に任せて行動しているわけではない。インターネットで得た知識を基に行動している場面もある。全てではないが。

 読んでいて意外だったのは、インドネシア>北朝鮮>米国と渡り歩いたアランとユリウスの二人がスウェーデンに戻り、スウェーデンでの物語が始まった後半だった。それまで、金正恩やトランプ大統領と渡り合ってきたふたりが、スウェーデンに一文無しでたどり着く。そして、知り合ったザビーネという中年の女性の経営する「棺桶会社」を手伝い始める。それまで、結構インターナショナルな展開で来たのに、急に小さな町で、棺桶の製造販売を始めた二人。最後、どのようにまた前半の展開に関係づけられるのか、不思議に思い、興味深かった。商売上の失敗から、ネオナチに追われ、スウェーデンを去らなければならなくなった、ザビーネ、アラン、ユリウス。その逃亡先に選んだ意外な場所が、前半の展開へ戻るきっかけとなる。またまた、あり得ないような偶然によって。

 余り多くを書かないでおこう。この本自体が、そんな分析や批評を拒否するために存在すると言っていいからである。分析、批評などをしようとする人は、まず、この人の作品は楽しめない。何も考えないで笑い続ける、それがヨナソンの作品を楽しむ秘訣だと思う。

 

20214月)

 

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