「殺人者アンデルスと彼の友人たちならびに敵対者たち」

原題: Mördar-Anders och hans vänner (samt en och annan ovän)

ドイツ語題:Mörder Anders und seine Freunde nebst dem einen oder anderen Feind

2015年)

 

<はじめに>

 

前作の二冊が面白かったがゆえに、新作が出たら買って読もうと待ち構えていた作品。ドイツ語訳発売と同時に、誕生日のプレゼントとして娘に買ってもらった。前作は地球規模の壮大な喜劇であったが、今回はどうなのだろう。

 

<ストーリー>

 

馬の仲買人であったヘンリク・ベルイマンの孫、ペル・ペルソンは、彼の人生のこれまでの不遇を全て祖父のせいにしていた。祖父はかつて馬の取引で莫大な利益を上げていた。しかし、戦後トラクターが普及するにつれて、彼の没落が始まり、最後は馬に蹴られて死ぬ。その息子、ペルの父は、タイプライターと計算機の会社に勤めるが、間もなくワープロと電卓が現れて会社は倒産、職を失う。酒浸りになった父に愛想をつかした母は、ペルを連れて離婚し、警察官を始める。母は駐車違反の反則切符を切った相手の、アイスランド人の銀行家にプロポーズされ、その男と結婚することになり、アイルランドに渡る。十六歳になっていたペルは独りでスウェーデンに残こされる。彼は、非合法売春宿のフロント係としてアルバイトをしながら、高校を卒業する。その売春宿が摘発され、オーナーはそこをホテルにすることにする。その安ホテル「シュッデン」のフロント係として、ペルは雇用され、オーナーの勧めで、フロントの後ろの小さな部屋で寝起きすることになる。

ペルがフロント係として働き始めて五年が経った頃、「殺人者アンデルス」がそのホテルに長期滞在することになる。彼はこれまで三人を殺し、そのたびに服役し、人生のほとんどを刑務所で送っていた。三度目の懲役を終え出所したアンデルスは五十六歳になっており、今回はシャバに定着し、刑務所には戻らない決心をしていた。アンデルスは、気の弱いフロント係のペルを脅しては、ビールをせしめていた。

金も時間もないペルは、日曜日の午後のわずかな空き時間、サンドイッチを持って近くの公園で息抜きをするのが常であった。ある日、彼が公園のベンチに座っていると、ペルとそれほど歳の変わらない、汚い身なりの女性が近寄って来る。一応首に白いカラーを付けているので牧師らしい。彼女は、ペルを祝福してよいかと尋ねる。ペルがオーケーすると、女性牧師はペルのために神に祈りを捧げ、ペルにその代金として二十クローネを要求する。驚くペルに、彼女は、

「聖職者だって、この世では生きて行かねばならないのよ。」

と言いながら、自分の生い立ちを話す。父親の跡を無理やり継がされて牧師になったが、彼女は実は無神論者であった。それがばれて、数週間前に、教会を追い出されたという。ペルは、彼女に共感を覚え、持っていたサンドイッチを彼女、ヨハナ・キェランダーに与える。ヨハナはそれをガツガツと食べた後、ペルの職業を尋ねる。ペルがホテルのフロント係だと知ったヨハナは、

「『お友達料金』で泊めてくれない。」

と頼んでくる。結局、ヨハナもホテルの滞在客となり、「殺人者アンデルス」の隣の部屋に入る。ペルとヨハナがフロントで話していると、革ジャンを着た、「伯爵」と名乗る人相の悪い男が

「『殺人者アンデルス』はどこにいるのか。」

と言って訪ねてくる。アンデルスは眠っていた。男は、アンデルスに渡しておいてくれと言って封筒を置いていく。

「本当なら一万クローネなんだが、奴が半分しか仕事をしてないんで、半分の五千クローネだけだと伝えろ。」

と「伯爵」はペルに伝言する。封筒の中には実際五千クローネの現金が入っていた。

 目を覚ましてロビーにやってきたアンデルスに、ヨハナがその金の素性について尋ねる。アンデルスは、「伯爵」が「中古車」(実は盗品なのだが)の販売会社をやっており、金払いの悪い客を自分が脅すことにより、金を払わせ、自分も報酬を得ているのだと言う。アンデルスは数日前、金を払わない男の腕を、野球のバットでへし折ったのだという。片手に赤ん坊を抱いていた、相手の男が、赤ん坊を落とさないように留意しながら。

その話を聞いたヨハナは、三人で、「身体的危害請負会社」の設立を思いつく。アンデルスは、相手に自分の思っていたような危害を与えるプロであった。誰かを叩きのめしたいと思っている人間から依頼を受け、依頼者が期待しているのと同じ危害を相手に与えるという商売である。アンデルスはしぶしぶその話に乗る。

l  子供には危害を加えない、

l  殺さない、

l  必ず完治するような傷を与える

等のルールが作成され、値段表も危害の程度によって決められる。そして、報酬の八十パーセントはアンデルスが、残りの二十パーセントはヨハナとペルが受け取ることになる。

「身体的危害請負ビジネス」がスタートする。しかし、知名度が今一つで、なかなか依頼者が現れない。ヨハナはマスコミの利用を思いつく。彼女は、ある大衆紙に「殺人者アンデルスへの独占インタビュー」の話を持ち込む。新聞記者の訪問を前に、ヨハナは、アンデルスに対して、これだけは言え、これだかは言うなというレクチャーをする。しかし、アンデルスが緊張して、インタビューは想定して通りにいかない。しかし、外に出た記者たちを、アンデルスが追いかけ、

「誰かの膝の皿を叩き割ってくれという奴がいたら、何時でも言ってくれ。おれは高くないけど、腕は良いぜ。」

と叫ぶ。アンデルスの記事は評判となり、「身体的危害」の依頼が次々と舞い込み、ビジネスは繁盛、三人は短期間で大金を手にすることになる。

 一年が経った。シャバで「平穏な」生活を始めたアンデルスは、人生の意味について考え始める。彼は数日前、飲み屋のジュークボックスが「フリオ・イグレシアス」の歌を流し始めたのに腹を立てて、そのジュークボックスを窓から投げ落とした。彼は、これまでカッとなって、我を忘れ、野蛮な行いに走る癖があった。彼は、平穏な生活を続けるためには、その悪癖を直さないといけないと思う。彼は、ホテルの共同便所で、ヨハナが置き忘れた聖書を手にする。

 アンデルスはヨハナに子供の頃について尋ねる。ヨハナは、牧師であったが厳格で、冷酷で、ときに家庭内暴力を振るう父に育てらえたという話をする。その結果、自分は無神論者になってしまったと。しかし、神やキリストや聖書の話は、アンデルスには逆に働いた。

「もう暴力は振るわない。酒も飲まない。これからは神と、イエス・キリストの導きによって生きる。現在持っている金は、全て慈善団体に寄付する。」

と、突然言い始めたアンデルスに、ヨハナとペルは困惑する。せっかく、金が入り始め、貧困から抜け出したと思った矢先、その稼ぎ手が下りると言い出したのである。彼は、もう今後一切酒を飲まないと言い出したアンデルスに、

「これはキリストの血である。」

という理由を付けて、赤ワインを飲ませる。ふたりは、依頼者から前払いで集められるだけの金を集め、それを持って逃げることを考える。彼らは一大キャンペーンを行い、千四百万クローネの契約を取り付け、その金をトランクに詰めて、ホテルから脱出を図る。

一方アンデルスは、飲み屋で、「キリストの血」を飲んでいるとき、刑務所仲間のオロフソンに出会う。アンデルスは、かつてオロフソンに金を借り、返していなかった。オロフソンは、金の返済を迫るが、アンデルスは彼を一発で殴り倒し、ホテルに戻る。

オロフソンの復讐から逃れるために、アンデルスもホテルを出る決意をする。三人は、ペルが伯爵から借りてきたキャンピングカーに乗り、ホテルを離れる。オロフソンは夜に弟と一緒にホテルを訪れ、ホテルにガソリンをかけて放火する。ホテルは焼け落ちるが、幸い死者や負傷者はでなかった。そのホテルの火事のニュースを、かつてアンデルスを取材した新聞社の編集長が知る。彼は、

「スウェーデンで一番凶悪な人間、殺人者アンデルスのホテルが放火され本人は逃亡中。」

という記事を書き、その記事が翌朝の新聞に載る。

キャンピングカーで逃避行を続ける三人だが、新聞にはアンデルスの顔写真がデカデカと出ていた。幸いペルとヨハナのふたりについては、マスコミは触れていなかった。ふたりは、アンデルスに車から出ないようにいう。しかし、アンデルスは赤十字のチャリティーショップの前に車が停まった際、金を持って車を抜け出し、五十万クローネの金を、職員に渡そうとする。しかし、職員も、他の客も、アンデルスの顔を新聞で見て知っていた。

「人殺し〜。助けて〜。」

悲鳴が上がり、店中がパニックになり、アンデルスは逃げ出す。次にアンデルスは、車がスーパーの駐車場に停まっているとき、ドアの隙間から、五十万クローネの金を救世軍の女性職員に手渡す。職員は大声を上げ、三人は大急ぎで発車させる。

ヨハナとペルは、アンデルスをどこかに置き去りにして、自分たちだけ逃げることを考え始める。ふたつの事件に対して警察は捜査を開始し、事件はマスコミにも大きく取り上げられた。しかし、渡された金が過去の犯罪と関係のないこと、またアンデルスが、

「神のご加護のあらんことを。ホジアナ。」

と言っていたことが明らかになり、マスコミはアンデルスを悪人から集めた金を、貧しい者たちにばらまく、「現代版ロビンフッド」のように扱いだす。遂には、スウェーデンの女王までが、アンデルスに言及する。これを利用しない手はないと考えたヨハナは、車を買い、これまで乗っていた「伯爵」から借りていた車に現金と「慈善者である殺人者アンデルス」をアピールの手紙を乗せ、子供たちの居る施設の前に停めておく。「慈善者・殺人者アンデルス」の人気は高まり、マスコミは彼を取り上げ、チャリティーのウェッブサイトが開かれ、寄付が集められる。

 ヨハナは、アンデルスを中心とした教会を開くことを考え付く。彼女は、宗教法人開設の手続きをし、信者がいなくなって潰れかけている田舎の教会を二束三文で買う。彼女は墓地を潰して、駐車場を作り、最初の礼拝に備える。同時に、ヨハナは説教者としてのアンデルスに説教の特訓を施す。しかし、世の中の移り変わりは早く、アンデルスは数週間後にはマスコミでも、ソーシャルネットワークでも取り上げられなくなる。三人は、「アンデルスの教会」のアピールのために、子供たちのためのチャリティーを主催しているスウェーデン女王に寄付を渡そうとするが、爆弾と疑われてアンデルスは逮捕されかかる。しかし、その事件でまた人気が盛り返す。

 ストックホルムでは、「伯爵」、「伯爵夫人」の下に、裏社会の大物が集合、アンデルスの処遇について協議をしていた。ギャングたちの多くが、アンデルスと「身体的な傷害」を敵対する者に与える契約をし、大金を前払いしていた。そして、それを持ち逃げされ、怒り心頭に発していた。彼らは、オロフソン兄弟に、アンデルスの抹殺を依頼する。

 一方、アンデルス側も対策を講じていた。ペルはフィットネスクラブを廻り、屈強な男を物色する。そして、「ドスのジェリー」という男を採用し、彼を中心に用心棒軍団を結成し、警備に当たらせる。また、教会の入り口には、金属探知機が設置される。これらで、ペルとヨハナが持ち逃げした金は底をついたが、ふたりには勝算があった。

 礼拝の前日、警備に当たるジェリーは不審な人物を教会へ通じる砂利道で発見する。ジェリーが問い質すと、ビョルエ・エックマンと名乗るその男は、

「自分はこの教会のアシスタントである。」

と主張する。永年職業安定所に勤め、定年退職したエックマンは、数年前からこの教会のアシスタントをしていた。しばらく閉鎖されていた教会が再開されたので、再び雇ってもらうためにやってきたという。しかし、アンデルスの教会を胡散臭いものと考える彼の本心は、教会の内部の不正を見つけ、それを警察や税務署に告発することにあった。ヨハナもエックマンを好きになれなかったが、アンデルスは彼を雇う。

 さて、最初の礼拝の日、土曜日の午後五時、教会は人で溢れ、入れなかった人々は、外の巨大なスクリーンで中の様子を見ていた。そこへ、アンデルスが現れ、

「寛大さ、寛大さ、寛大さ・・・」

と話を始める。話の内容はまとまりのあるものでなかったが、アンデルスはエルビス・プレスリーのようなカリスマ性を発揮、何を言っても拍手喝采で、その日は、巨額の寄付が集まった。しかし、翌週から礼拝への参加者も、寄付の金額も、目立って減り始める。そこで、ペルとヨハナは別の手を考える。それはコーヒーとクッキーの代わりに、ワインを参加者に振舞うというものであった。

 ジェリーを通じて、大量のワインが手配される。ぺルは、ソーシャルネットワークを通じて、

「来週アンデルス教会では、無料でワインが振舞われるという未確認情報がある。」

という情報を流す。果たして、次の土曜日、教会は再び満員となる。座席にはワイングラスが置かれ、通路には、箱に入ったワインが並べられていた。説教壇に立ったアンデルスは、

「キリストの血を皆で分かち合おう。キリストに乾杯!」

と叫び、グラスに入ったワインを飲み干す。参加者もそれに従ってワインを飲み、教会は宴会の場となる。酒で心が大きくなった人々から、ペルとヨハナは再び、大枚の寄付を集める。その中で、酒を飲まない女性が一人いた。それは鬘と眼鏡で変装した「伯爵夫人」であった。

酒が飲み放題に釣られて参加者した人々からの寄付で、ヘアとヨハナは、キャンピングカー暮らしをやめ、高級ホテル、「ヒルトン」のスイートルームに移る。しかし、良いことは続かなかった。「伯爵」と「伯爵夫人」は、アンデルスを狙撃しようとし、土曜日の昼に教会の前の森に隠れる。しかし、伯爵の撃った銃弾はアンデルスには当たらず、エックマンに命中した。その直後、「伯爵」と「伯爵夫人」は遅れてやって来たオロフソン兄弟が持ってきた手榴弾の暴発によって死ぬ。ヨハナはジェリーに、エックマンの死体に重りをつけ、海中に沈めるように命じる。

 その夜の礼拝の後、警官が教会に駆けつける。エックマンが、死ぬ前に連絡しておいたのであった。警官は泥酔した者や、酔っ払い運転の現行犯の者を逮捕する。州の教会監督庁は、アンデルス教会に対して、礼拝中に酒を振る舞うことを禁止する。

翌日、税務署の職員が訪れ、ペルとヨハナに会計書類の開示を求める。これもエックマンが密告していたのだった。

「自分たちは単なる使用人で、全てはアンデルスによって行われている。アンデルスは外出中だが明日には戻る。明日また来て欲しい。」

とヨハナは税務署員に言い、その日のうちに、税務書類の名義を全てアンデルスに変えてしまう。そして、翌日、アンデルスにウオッカと麻薬入りのワインを飲ませる。アルコールと薬で、昔の凶暴性を取り戻したアンデルスは、税務署員を殴り倒す。そして、その罪と、不正会計と、大量の使途不明金、脱税の罪も加わって、また刑務所に逆戻りをする。彼は二十六か月刑務所で過ごすことになる。「使途不明金」をそのまま着服したペルとヨハナは、高級ホテルでの生活を続ける。

伯爵夫妻を亡くしたものの、ストックホルムの闇の世界の男たちは、何とか金を取り戻そうとし、オロフソン兄弟に、ペルとヨハナを探し出すことを厳命する。彼らはもう誰もいなくなった教会に入る。そこで、ヒルトンホテルからの領収書を発見する。オロフソン兄弟はヒルトンホテルの前で待ち伏せをする。何時までもストックホルムに留まるのは危ないと感じたペルとヨハナは、ゴットランド島にある漁師の小屋を買ってそこに住むことにする。そして、残った全財産を黄色いスーツケースに詰め、ホテルを出る。ふたりはホテルの前で、オロフソン兄弟に捕捉され、ギャングたちの前に連れて行かれる。彼らは金どころが、命まで奪われる危険な状態になる。ヨハナが喋り始める。ヨハナは今回も、得意のお喋りで、危機を脱することができるのだろうか・・・

 

<感想など>

 

 過去二作でも、ヨナソンのストーリーは「荒唐無稽」。スターリンから、毛沢東から、原子爆弾から、時空を駆け巡る、何でもありの世界。しかし、今回は、舞台がスウェーデンに限られており、歴史的な人物も登場せず、かなり「こじんまり」とした設定になっている。しかし内容が荒唐無稽であることには変わりない。「身体的危害請負会社」、「殺人者による教会」、中でも「無神論者の牧師」には笑ってしまった。

 この本は大人の童話でありコメディーなので、筋立てがご都合主義であり、設定に無理があり、非現実でないことは覚悟して読まなければならない。作者のヨナソンも、それなりに説明を加えている。しかし、どうしても納得できなかったのが「無神論者の牧師、ヨハナ、誕生の件」である。ヨハナの家計は、代々ある土地で、教会の牧師の職を世襲してきた。彼女の父親も「無理やり」牧師にならされた人物である。ヨハナは女の子であるという理由で、父から嫌われ、虐待され、母親はヨハナが十六歳の年に、入水自殺を図る。その後ヨハナは大学に入学、家を出る。彼女は父を嫌い、神とキリストをも嫌悪していた。しかし、ヨハナは結局、神学と教育学を専攻し、卒業後、牧師養成学校に入り、父親の跡を継いで、教区の牧師になる。そして、ヨハナ自身が、機転の利く、お喋りだけれど、聡明な女性として描かれている。それだけに、彼女が牧師になったという点は、どう考えても不自然だ。

 喜劇であるからして、登場する人物は全てステレオタイプ。アンデルスも、ペルも、ヨハナも、オロフソン兄弟も、「伯爵」夫妻も、ドスのジェリーも、その役割を演じるためだけに存在し、行動する。話を複雑にする「心の襞」とか、人物設定が変わってしまう「心変わり」というのはないのである。唯一の例外がアンデルスの「殺人者」から「宗教家」への転身である。

 貧困の底にあるヨハナとペル。彼らはそれを父や祖父のせいにしている。彼らの前に現れた奇妙なキャラクター「殺人者アンデルス」、ふたりをそのキャラクターを使って金儲けをしようと考える。ふたりの共通の目標は貧乏からの脱出。彼らはありとあらゆる手段を使って金を儲け、最後は裏社会のギャングから追われる立場になる。そして、人生の目標は金と裕福な生活なのかと、これまでの価値観に疑問を持ち始める。一方、アンデルスは、自分の感情を制御できない人物。一応もう刑務所に入りたくないので、殺人だけはやめようと思っている。そして、こともあろうに「無神論者」の影響を受けて、神とキリストに仕える道に入っていく。作者のメッセージは実に明確である。

 汚いと書かれていることから想像する容姿、その饒舌などから、ヨハナは中年のおばさんだと途中まで思っていたが、実はまだ二十代であった。まず話だし、話すことを通じて、自分の方針を見つけていくという、「口から先に生まれた」お喋りの女性。すぐ信じてもいない聖書の引用をするし、どう考えても「おばさんキャラ」なんだが。

 ホテルを出て、逃亡の身になったからの展開は、前二作と少し共通点はある。しかし、前二作とは違ったものを書こうとした、作者の意図は伺える。最初の二作がちょっと強烈な作品だってので、どうしても地味な印象を持ってしまう作品。しかし、楽しく読めた。

 

20166月)

 

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