人がいいか馬がいいか
今回も自転車でよく走った鴨川の河川敷遊歩道。信号がないので便利。
朝と夕方、母の家の近くを自転車で走っていると、箱型の車が、走っていたり、民家の前に停まっていたりするのを、度々見る。車の横を見ると、「OOデーサービス」、「XX介護センター」などと書かれている。デーサービスへ通う老人たちを送迎する車なのだ。僕の父も、亡くなる前の数年間、デーサービスに通っていた。そのとき、センターのスタッフと話したこともあるし、施設を案内してもらったこともある。実際に父がそこにいるとき訪問して、見学させてもらったこともある。だから、中の様子は大体分かっているつもり。
一番大切で、手間のかかる仕事は、「老人たちをお風呂に入れる」ことだと思う。風呂に入るというのは「風呂を焚いて>服を脱いで>風呂桶をまたいで風呂に入って>またいで出て>身体を洗って>乾かして>服を着る」と、身体が不自由になった老人にはかなり高いハードルの並んでいる作業である。そして風呂に入らなくても死なない。嗅覚は六感の中で最も慣れやすいとのこと。という理由で、風呂に入らなくなるお年寄りが多いのだろう。しかし、他人を風呂に入れるというのも大変な作業。僕は学生の頃、身体障碍者施設で、入居者の若者を風呂に入れるアルバイトをしていた。人間というのは結構重いし、風呂場は暑いし、なかなかハードな仕事だった。最近は座ったまま、風呂に入れる、機械もできて、少しは作業が楽になっていると思うが。
話は変わるが、僕が日本を発つ三日前、「いとこ会」というのをやった。父方の従兄弟従姉妹が集まって、一杯飲もうという集いである。急に来られなくなった人もいたが、従姉妹のSちゃんとTちゃん、それにSちゃんの御主人の四人が、先斗町の「沙羅双樹」という店にやって来た。Sちゃんの旦那さんのWさんは、某自動車会社を定年退職後、デーサービス施設の運転手をやっておられる。まさに、僕がいつも目にする、老人を乗せた箱型の車を、運転しておられるわけである。
「俺は、七十五歳で死ぬことにした。」
とWさんが突然言い出した。どうしてなのと尋ねると、
「だって、俺が毎日見てる老人みたいになりとうないもん。」
とWさん。なるほどね、もちろん、僕の母のような元気な人は、デーサービスに行く必要がない。デーサービスに来られているお年寄りは、身体が不自由とか、認知症とか、健康に問題のある方ばかり。そんな人々を毎日見ていたら、確かに気が滅入るよね。また、歳をとると、性格が強調されるらしい。性格には良い面と悪い面があるが、悪い方が特に。
「ムカッと来ることもあるけど、相手はお客さんやろ。下手(したて)に出なあかんしね。」
なるほど、ご老人相手の人間関係も、色々大変なんだ。特に、お年寄りは頑固だしね。僕はふと考えた。僕は「捨馬保護センター」で働いている、そこには、主に歳を取ったり、身体に障害がある馬が収容されている。つまり、馬の「デーサービス」施設みたいなもの。僕はそこで、食事と、排泄物の世話をやっているわけ。同じようなものだ。でも、馬は話をしない。Wさんのように、人間関係に悩むことはない。相手をするのが馬というのも、その点悪くはないなと、僕は思った。
堀川通もよく通った。二条城はオフシーズンとは言え、賑わっていた。