「暗い夏」

ドイツ語題:Dunkelsommer (暗い夏)

原題:Silvervägen(銀色の道)

 

 

スティーナ・ジャクソン

Stina Jackson

 

 

<はじめに>

 

スウェーデン、ミステリー界の新星と注目されるスティーナ・ジャクソンの処女作。スウェーデン北部のノールランド地方を舞台にしている。この作品で、彼女は数々の賞を受けた。アメリカに渡った作者が、故郷の北スウェーデンの厳しい風土を舞台にして書いた、意欲作であり、会心作である。

 

<ストーリー>

 

スウェーデン北部、ノールランド地方。高校の教師、レッレ・グスタフソンは、三年前の夏に行方不明になった当時十七歳の娘、リーナを探し続けている。彼は、学校が休みになり、白夜が続く夏の間、一晩中車であちこちを走り回り、娘の消息を追っていた。リーナは三年前の早朝、学校へ行く際、レッレがバス停まで送って行った。しかし、彼女はバスに乗らず、忽然と姿を消した。警察と地元の人々で捜索隊が結成され、辺りは虱潰しに捜されたが、手掛かりは得られなかった。レッレの妻のアネッテは、SNSを使って、リーナの発見への協力を求めていた。レッレはここ三年間、憑かれたように、娘を探し回っていた。妻のアネッテは、そんなレッレに愛想を尽かし、家を出て行った。

夏、シリエと娘のメーヤは、長い列車の旅を終えてノールランドのある町に着く。駅には、トービョルンが迎えに来ていた。シリエはインターネットのデーティングサイトでトービョルンと知り合い、彼と一緒に住むために、はるばるやって来たのだった。トービョルンは、二人を、森の中にある自分の家に連れて行く。そこは、人里離れた古い家で、散らかっていたが、シリエは気にしていないように見えた。着いた日の深夜、眠れないメーヤは家を出て、森の中へ入って行く。一晩中、日は沈まない。湖の畔で三人の若者が焚火をしていた。三人は兄弟だった。末の弟のカール・ヨハンが、メーヤに焚火の輪の中に入ることを勧める。彼らはその後、湖で泳ぐ。メーヤは、カール・ヨハンに好意を抱く。

その日も、レッレは真夜中の太陽の下を、車で走り回っていた。彼は、広いノールランドのありとあらゆる場所を訪れ、調べるつもりだった。そんな彼に理解を示していたのが、ガソリンスタンドの主人のキッペンと、警察官のハッサンであった。レッレは、いつも拳銃を携行していた。自分でも、それが何のためか分からないときがあったが。彼は、道沿いに空き家や、納屋があると、入って行って中を調べた。そんな荒れ果てた建物が、ノールランドには沢山あった。

翌朝、メーヤはトービョルンと朝食をとっていた。シリエはまだ寝ている。彼女はこれまで、母親のシリアの相手の男性には、出来るだけ没交渉でいるように努めていた。トービョルンは、メーヤに自転車があるので、それに乗って辺りを見て回ることを勧める。トービョルンは仕事に出掛けるが、シリエもメーヤも彼が何の仕事をしているのか知らなかった。その日から、メーヤは、深夜、トービョルンと母親が寝てから、度々カール・ヨハンと会うようになる。彼女はカール・ヨハンが好きになり、彼もメーヤを愛していると言った。

深夜、レッレは一軒の家に近づく。人里離れたその家を、彼はまだチェックしていなかった。彼が家の前に立つと、銃声がする。レッレは自分が狙われているのを知る。その家の主が撃ちかけてきたのだ。レッレは逃げるが、犬に追いつかれ、男に取り押さえられる。レッレは家に連れて行かれるが、事情を話すと男は納得する。パトリックというその家の主は、国連平和維持軍でアフガニスタン駐留し、何人も人を殺したことがあるという。彼はそのトラウマに苦しんでおり、レッレの立場を理解する。

レッレは、ハッサンから、トービョルンが女性と一緒に住んでおり、その女性にティーンエージャーの娘がいることを知る。レッレは、本能的に、その娘が危険に晒されていると感じる。

シリエは娘が、夜に外出していることに気付き、何処に行っているのか問いただす。メーヤは、カール・ヨハンというボーイフレンドが出来たことを告げる。トービョルンは、カール・ヨハンの家族について知っていた。父親のビリエと母親のアニタは「変わり者」で、世間とのコンタクトを絶ち、子供たちを学校にも行かせず、ほぼ自給自足の生活を送っているという。

レッレが深夜、激しい雨の中を車で走っていると、一人の男が彼の車を止める。男は、レッレに、携帯の電池がなくなったので、電話をさせて欲しいと頼む。レッレはその男を助手席に招き入れ、電話を使わせる。

「かみさんにちょっと電話をするだけ。」

そう言って、男は誰かと話している。

「この時間に、彼の妻が起きている?」

レッレは引っ掛かりを覚える。レッレは外に出て男の車の中を覗く。そこに、自分の娘のレーナの顔が見えた。

「私を見かけたら警察へ。」

それは、レーナの捜索キャンペーンのために、アネッテが作ったTシャツだった。レッレはその男の特徴と、車のナンバーを控え、ハッサンにその男の調査を依頼する。ハッサンは、その男がロガー・レンルンドという男で、若いころ、強姦と女性に対する暴行で、有罪判決を受けていたことを知る。レッレはその男を見張る。

レッレはそのレンルンドの家に侵入する。しかし、現れたレンルンドに取り押さえられてしまう。レンルンドは、昔の所業は褒められたものではないが、現在は足を洗っていて、リーナの失踪事件とは無関係だと言う。そして、レーナの写真のプリントされたTシャツは、捜索活動に参加したときに貰ったものであると言う。レッレは、レンルンドの言うことが嘘とは思えない。

メーヤは自転車で町に外出しようと思いつく。納屋へ自転車を取りに行ったメーヤは、そこで大量のポルノ雑誌を見つける。町に着いたメーヤは、火の点いたトーチを持った人々の行列に出くわす。メーヤは何のための行動なのか、見物している同年齢の少女に尋ねる。

「三年前に行方不明になったリーナというティーンエージャーのためのキャンペーンよ。」

と、クレーという名のその少女は答える。

レッレが家に戻ると、誰かが家に侵入している。その男は、リーナの部屋にいて、窓から飛び降りて逃げようとする。しかし、その際足を怪我して、レッレに追いつかれる。その男は、かつてリーナのボーイフレンドであった、ミカエル・ヴォルフだった。ミカエルは、リーナのことが忘れられず、時々、リーナの部屋に来て、彼女を思い出していたという。レッレはミカエルに所持品を出させる。ミカエルは、リーナが裸でベッドに横たわる写真を持っていた。レッレはそれを破り捨てる。そして、ミカエルを警察に突き出すことなく、立ち去らせる。レッレは、ハッサンに、ミカエルについて警察が何を知っているか尋ねる。ハッサンは、リーナが行方不明になった後、ミカエルを重要参考人として長時間にわたって尋問したが、結局、自白も物証も得られず、釈放したという。

二日間、夜になると、メーヤは窓の傍に立って待っていたが、カール・ヨハンは現れなかった。三日目、やっと彼は現れる。

「携帯でメッセージを送りたいの。」

とメーヤが言うと、カール・ヨハンは携帯を持っていないという。父親のベリエが、携帯は政府が国民を統制するものだと考え、家族に禁止しているという。二人は、湖の傍で初めてキスをする。メーヤはカール・ヨハンをシリエとトービョルンのところへ連れて行く。メーヤは来年十八歳になったら、直ぐにここを出たいと言う。カール・ヨハンは、近くにいてくれとメーヤに頼む。

レッレが家に帰ると、また人の気配がする。元妻のアネッテが来ていた。アネッテは、寝食を忘れてリーナ探しを続けているレッレにたいして、

「リーナは死んだわ。忘れて、普通の生活に戻って。」

と懇願する。その後、ふたりはセックスをする。

カール・ヨハンは夜半に、メーヤを自分の両親の家に連れて行く。彼は、メーヤを、母親のアニタと父親のベリエに紹介する。二人はメーヤを気に入ったようで、メーヤも初めて味わう「家庭」の雰囲気を楽しむ。その夜、メーヤはカール・ヨハンの両親の家に泊まる。

目を覚ましたレッレは新聞を見る。新聞は、十七歳の少女、ハンナ・ラーションが、シルヴァーヴォーゲン沿いのキャンプ場で行方不明になったことを伝えていた。レッレはその少女の写真を見て驚く。娘のリーナに似ていたからだ。彼はハッサンに電話をする。ハッサンは、少女がどうなったのか、コメントするには早すぎる、まだあらゆる可能性があると言う。

翌朝、メーヤはカール・ヨハンの家族と朝食を取る。出された食材は、全て、彼らの農場で採れたものだという。朝食の後、メーヤはシリエとトービョルンの家に戻る。二人は、メーヤのことを心配していた。とりわけ、同じ年の少女が行方不明になったことが二人を不安にさせたのだった。メーヤはそこで、二人目の少女の行方不明事件について知る。

新聞を読んだレッレは、ハンナ・ラーションが行方不明になったキャンプ場に向かう。そこでは、警察や地元の有志達が捜索を続けていた。彼はハンナの父親に会う。

「俺も三年前、同じ目に遭ったので、あんたの気持ちは痛いほど分かる。何か相談に乗れることがあれば、連絡をしてくれ。」

レッレは父親にそう言う。帰り道、レッレは、トナカイの子供を轢いてしまう。彼は、その死体を助手席に乗せて、森の中に運び捨てる。

夏至の夜、メーヤはカール・ヨハン一家の夏祭りに参加する。祭りと言えども、アルコールは一滴もない。カール・ヨハンは、生まれてからアルコールを一滴も飲んだことがないという。そこに、シリエから電話がかかる。

「大変なことが起こった。直ぐに帰ってきて。」

とシリエは叫んでいる。メーヤはカール・ヨハンの運転する車で、急いで母親の家に戻る。ふたりが戻ると、シリエが泣き叫んでいた。彼女は、納屋にあるトービョルンの大量のポルノ雑誌を発見したのだった。そして、そこに写っている、自分の娘と同じ年頃の少女の写真に衝撃を受けていた。

「俺は三十年以上独り身で暮らしてきたんだ。その間、色々間違ったこともした。今はもうそんな趣味はない。あの雑誌は捨て忘れていただけだ。」

とトービョルンは言う。

「それを燃やすの、手伝うよ。」

とカール・ヨハンはトービョルンに言う。二人は、納屋から大量のポルノ雑誌を運び出して燃やす。メーヤは、

「私はもうここにいたくない。あなたのところで暮らせないかしら。」

と尋ねる。カール・ヨハンは、メーヤを再び両親の家に連れ帰り、メーヤをしばらくうちに住まわせてくれるように、父親に頼む。父親のベリエは、しばらく躊躇した後に、それを認める。メーヤの母親の許可を得ること、農場の手伝いをすること、携帯を使わないこと、それらを条件に、メーヤはカール・ヨハンの家に住むことを許される。

ハッサンがレッレの家を訪れる。ハンナの行方不明事件に関して捜査中に、ハンナの行方不明になった時刻に、レッレの車が目撃されたという。ハッサンはレッレの車の中に、大量の血が付いているのを発見する。

「トナカイの血だ。」

とレッレは言い張る。ハッサンは念のために車を調べると言い、警察がレッレの車を持って行く。レッレは、車なしでは捜索活動ができないので、失望する。

車がなくなったので、徒歩で捜索活動を続けるレッレは、深夜、道路脇でイェスパーという若者に出会う。彼は、リーナと同じ学校に通っていて、リーナのこともよく知っていたと言う。

「リーナは良い娘だったけど、相手のミカエルは最低だった。」

と、イェスパーは言う。

「ミカエルがリーナを殺したと言っているという噂を聞いたことがある。」

と彼は更に言う。そして、その噂の出所は、ヨナスとヨーナ、双子のリングベリ兄弟であるという。

メーヤはカール・ヨハンの一家と暮らし始める。彼女に与えられた仕事は、鶏小屋の世話であった。彼女は、カール・ヨハンと寝て、彼の両親も孫の誕生を期待する。しかし、メーヤは秘かにピルを飲んでいた。シリエとトービョルンは、彼女を訪れ、

「ビリエは、カール・ヨハンを囮に使って、お前を取り込もうとしてるのだ。」

と警告する。しかし。メーヤは耳を貸さない。

レッレはハッサンを訪れる。

「リングベリ兄弟について知っているか?」

とレッレはハッサンに尋ねる。

「奴らは、アルコール密造で何度か捕まえたが、リーナの事件とは関係ない。」

と、ハッサンは言う。

「お前は疲れ切っている、少し休んだ方が良い。」

ハッサンはレッレを招き入れる。レッレはハッサンの家のソファで、数時間寝込んでしまう。

 目を覚ましたレッレは、ハッサンの静止を振り切って、徒歩でリングベリ兄弟を探しに出かける。森の中で、焚火を囲んでいる数人の若者がいた。何人かは、レッレの学校の生徒であった。レッレは彼らに、リングベリ兄弟の行方について尋ねる。皆知らないと言う。そのとき、レッレは、後ろから首筋を捕まえられ、ナイフを突き付けられる。

「俺が、ヨナス・リングベリだ。」

その男は言う。

「俺たち兄弟は、あんたの娘とは関係ない。ミカエル・ヴォルフがリーナを殺したと俺たちに言ったが、俺たちは全く関係していない。」

リングベリは言う。

メーヤは初めて家族の中で暮らす喜びを味わっていた。ただ一つの気掛かりは、一番上の息子であるイェランであった。彼は、顔全体にニキビがあり、それをで掻くので、いつも顔に血が付いていた。彼は、メーヤのことを、黙って眺めていることが多く、彼の視線がメーヤを不安にさせた。

「俺も、女が欲しい。」

とあるとき、イェランがメーヤに言った。

「家を出て、自分で探せば?」

メーヤが言うと、

「こんな男を選ぶ女があると思うか?」

イェランは自嘲気味に言った。

リングベリと別れたレッレは、ミカエルの家に向かう。彼の頸はヨナスによって突き付けられたナイフによって傷つき、血が流れていた。家に着くなり、レッレは、ミカエルにピストルを突き付ける。

「正直に言わないと殺す。おまえは、リーナを殺して埋めたと、リングベリ兄弟に自白したんだな。」

レッレが問い詰める。ミカエルは、

「リングベリ兄弟から密造酒を買ったものの金が払えなくなり、激しい取り立てを受けていた。それから逃れるために『人を殺した』とはったりを言い、兄弟を自分から遠ざけようとしただけだ。」

と答える。

ベリエはメーヤに見せたいものがあるという。彼が案内したのは、地下にあるシェルターだった。そこには、食料、水、武器などが貯蔵されていた。

「戦争であろうが、天災であろうが、何が起こっても我々はここで最低一年は生きられる。ひょっとして永久に生きられるかもしれない。」

と言う。ビリエは自分の生い立ちについて話す。彼は、貧しい家に生まれ、満足に食べる物もない環境で育った。彼は、里親に引き取られ、そこで同じようにそこに引き取られて来たアニタと会う。ふたりはティーンエージャーの時、里親の下を逃げ出す。ふたりは働いて金を貯め、この土地を買い、自分たちが理想とする、「誰にも頼らない生活」を始めたという。そして、三人の男の子が出来たという。

少女は暗い部屋に閉じ込められていた。一日に一度、水と排泄物を入れるバケツが取り換えられた。食料は与えられたが、彼女は食べることを拒否していた。食料やバケツを持って現れる男は顔全体を隠すマスクをしていた。彼女は、何度かその男に攻撃を加え、脱出を試みたが、その都度取り押さえられていた・・・

 

<感想など>

 

スウェーデンの北部に広がる、ノールランド地方を舞台にした小説である。ノールランド地方は、スウェーデンの地方区分の一つで、更に九つの地域に別れている。スウェーデンの三分の一を占める広大な土地である。そして、一部が北極圏に入る、極めて人口密度の低い土地でもある。白夜の夏。太陽の昇らない冬。そして、夏の間も、無数の蚊が飛び交っている、厳しい気候であるという。地図で見ると、森と、無数の湖が混在している。

作者のスティーナ・ジャクソンは、一九八三年、ノールランド地方のシェルレフテオーSkellefteåで生まれている。ジャクソンは、地元の高校を卒業した後、ストックホルムに移り、二〇〇六年に結婚をして、米国、コロラド州デンバーに移住している。現在も米国で暮らしており、彼女の小説は、米国で、自分の故郷を思い描きながら書かれたものである。二〇一八年に発表されたこの「銀色の道」は、二〇一九年の「スウェーデン犯罪小説作家アカデミー賞」と北欧四国の最優秀作を選ぶ「ガラスの鍵賞」の両方を受賞、国際的なベストセラーとなった。彼女は、新しいスウェーデンのミステリー小説のホープと期待されている。彼女はスウェーデンと米国の二重国籍を有している。

 「銀色の道」(Silvervägen)とは、シェルレフテオーから北西に向かって延びる道である。主人公のレッレ・グスタフソンは、夏の間毎晩この道を通り、娘リーナの捜索活動に出掛ける。

 この物語の主人公は二人いる。ひとりは高校教師のレッレ・グスタフソン。三年前の夏に、一人娘のリーナが行方不明になり、その後、娘を探すことに生活の全てを傾けている五十歳前後の男である。もうひとりは十七歳の少女メーヤである。彼女は、母親シリエが見つけた新しいパートナーと住むために、ストックホルム近郊からノールランドに越してきた。彼女はそこでカール・ヨハンという若者と知り合い、恋に落ちる。

 先ずはレッレであるが、夏になり、太陽が一日中沈まなくなると、彼は広大なノールランド地方を一晩中走り回り、空き家、納屋、森、湖などを訪れ、行方不明になった娘の手掛かりを探している。

「どうして、そんな生活が可能なの?」

と、最初考えるが、彼が高校教師であることが後で分かり、説明がつく。職場の学校が夏休みなのである。彼の執念は異常とも言え、「娘を探すために生きている」のか「生きるために娘を探している」のか分からない状態である。妻も、彼の下を去った。しかし、彼は、家族に関わる時間をセーブできて、その分捜索に使えるので、むしろそれを喜んでいるようだ。

 メーヤの母親がインターネットで知り合い、一緒に住むことにした相手の男はトービョルン・フォルス。これまで独身、森の中の一軒家に住み、納屋の中に大量のポルノ雑誌を貯め込んでいる、ちょっと怪しげな人物である。メーヤは、母親が相手を頻繁に変えるために、これまで色々な場所に移り住んでいた。メーヤは地元の青年、カール・ヨハンと知り合い、彼の家族の中に、これまで憧れていた「普通の家庭」を見出した気がする。

 レッレとメーヤはずっと別々に描かれる。接点ができるのは、物語も後半になり、夏が終わり、学校が始まり、メーヤがレッレの担任のクラスにやって来るところからである。

 「誰がどのようにしてリーナを連れ去ったのか。彼女は生きているの?」

が読んでいく上で最大の焦点となる。色々と怪しげな人物が現れる。国連軍に参加し、人を殺したトラウマに苦しむ男。若いころ強姦、婦女暴行で逮捕された男。リーナの元ボーイフレンド。ポルノ雑誌を収集する男。密造酒を作る男、湖で少女の泳いでいるのを盗撮する男・・・犯人は必ずそれまでに一度登場しているという予測が付く。そう言う意味では、結構読者にとってフェアな戦いを、作者は選んでいる。

 舞台となるノールランド地方は、ちょっと想像の出来ない土地である。白夜の夏、暗闇の夜。極端に少ない人口。イメージが浮かばない。夏の間は、蚊の大群に悩ませられる場所だという。作者は、余りも寒い土地なので、人々は口を開けないで、口の間から空気を漏らすように話すと述べている。しかし、もちろん、ドイツ語訳で読んでいるので、方言の発音についてしる術はない。

「親は子供のためなら身を犠牲にして何でもやる。」

それが、この物語を読んで感じたこと。狂気の一歩手前とも言える、レッレの夜を徹しての捜索活動。それが三年間も続いている。全てを投げ打ち、レッレはそれに専念している。この「子供のための犠牲」が、物語の中に重要な役割を占めていると思う。

 警察官でレッレの友人でもあるハッサンのキャラクターに好感が持てる。カール・ヨハンの両親、ベリエとアニタが試みる「誰にも頼らない生活」が上手く行くかどうかも、注目するべき点のひとつであろう。

 読み応えは十分、しかも、書き過ぎていない。非常にバランスの取れた作品と言える。第一作で、スウェーデンと北欧のミステリー大賞を総取りしたジャクソンはまだ三十代。これからの益々の活躍が期待できる。

 

20208月)

 

書評ページ