タイガーカット
馬の毛の生え変わるときは鳥にとってチャンス。抜け毛を貰っていって巣作りに使う。
ロックダウン中、困ったのが「散髪」だった。理髪店、美容院は全て閉まってしまった。客との距離が極めて近い、つまり「社会的距離」が取れない、感染にとって危険な職種と言えるので当然だ。髪が伸びるのも、一カ月ぐらいなら我慢できるのだが、それ以上になると、うっとうしくなってくる。知り合いのイタリア人、Rさんはいつもすっきりした頭をしている。
「散髪、どないしたはんの?」
と彼に聞いてみた。
「自分でやってる。散髪の用具があるから、モトさん、貸してあげようか。」
「やったことないけど、やってみるわ。」
と言うことで、Rさんから電気バリカンを借りた。日本で買ったとのこと、パナソニック製で、日本のソケットに合う差し込みが付いている。散髪をやったのは、十年前、ソロモン諸島で、友人のGさんの頭を刈ってあげたきり。自分の頭でやるのは初めて。
「ま、失敗したら坊主頭にすりゃいいや。」
と自分でやってみる。しっかり失敗。耳の上が「タイガーカット」、「虎刈り」になってしまった。
「このまま阪神タイガースの応援に行けるで。」
と自嘲気味の僕。その後、妻が少し修正してくれたが、タイガーカットは変わらない。
「一週間もすりゃ伸びるやろ。」
僕は電気バリカンをRさんに返しに行った。彼は、
「一度切った髪をつなぐことはできないけど、何とか調整できると思うよ。」
そう言って、僕の髪に再挑戦を始めた。その手つきの良いこと。
「この方、建築士のはずなんやけど、理髪師の免許も持ったはるんやろか?」
と思う。十分ほどで僕のタイガーカットは解消された。Rさんは、昔から自分で散髪する人で、兄弟や友達の散髪をしてあげたことが、何度もあるとのこと。道理で・・・
ところで、馬にも散髪と爪切りが必要なことをご存知だろうか。馬の身体の毛は基本的に一定以上伸びない。シェットランド種のような寒い所に住む馬は、夏毛と冬毛があって、年に二回生え変わる。しかし、たてがみと尻尾は伸びる。それで、定期的に切ってやらないといけない。特に冬場、尻尾が長いと、先がドロドロになるので。尻尾の毛を切るときは、蹴られないように注意しながら、斜め後ろから近づき、片手で根元を掴んで、鋏で切っていく。たてがみと尻尾の毛を切るのは、誰でも出来る仕事なのだが、蹄(ひづめ)を切るのは難しい。チームワークと熟練が必要だ。先ず、馬に近づいて、首に鎮静剤を注射する。そして、四、五人がかりで馬を押さえつけて、よく切れるカッターナイフのような刃物で、蹄をそぐように切っていくのである。たいてい人数の多い週末に行われる。月曜日に牧場に行くと、よく、U字型に切った爪が藁の上に落ちている。人間の爪のように馬の蹄も際限なく伸び、最後は伸びすぎて歩けなくなるとのことだ。
背中が痒い時はお互いに口で掻きあっている。馬は結構社会的な動物なのだ。