ごはんの時間ですよ(1)
牧場には、数か所にピンク色の岩塩の塊が吊るされている。馬たちはそれをなめて塩分の補給をする。
二週間の日本滞在を終えて、英国に戻る。月曜日の夕方「シティー・エアポート」に着いて、英国の携帯のスイッチを入れたとたん、ジュリーからのSMSが入った。
「モト、今日は何時に来るの?」
月曜日に戻って、火曜日から働くと言っておいたのに・・・彼女は今日から働くと誤解していたらしい。もう午後五時である。返事を書く。
「ごめん、今着いたばっかり。明日から働くから、今日は何とかして。」
翌朝午前九時半、僕は二週間と一日ぶりに、馬たちと再会した。
「ただいま〜、元気だった?」
数頭の馬が振り向き、
「なあんだ、おまえか。」
という顔をする。順番に首をポンポンと叩いていく。もうクシャミをしている馬はいない。ウマインフルは去ったようである。しかし、黄色い「動物立入禁止」の立て札は出たままだった。英国の天気は良かったようで、ぬかるみはかなりましになっている。おそらく、ジュリーが慌てて昨日の夕方対処してくれたらしく、水のバケツには、まだたっぷり水が残っており、ウンコも一日分しか落ちていなかった。皆さん、僕がいない間も、上手に穴を埋めてくれていたようである。
さて、ここで馬たちの食事についての話をしたい。朝八時ごろと、夕方五時ごろ(冬は四時ごろ)に、ジュリーやベテランのメンバーが、餌やりにやって来る。僕は、手伝ったことは何度もあるが、自分独りでやったことはない。なぜなら、これが、なかなかに難しいのである。
「全部覚えるのに数か月かかるわ。」
と最初、ジュリーに説明してもらったとき、そう思った。
ジュリーによると、馬は基本的に青い草を食べていれば、他の物は何も与えなくてよいという。そうだよね。何千年も前から、馬は草だけを食べて生きてきたんだから。しかし、限られた広さの牧場で、大量に飼われている馬は、野原に放牧されている馬のように、青草を食べ放題というわけにはいかない。干草と藁が主な食事となる。そして、それを与えるのが僕の仕事なのだが。馬にはそれ以外にも以下のような食事が与えられる。もちろん、病気の馬には薬も。
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ペレット状のホースフード
A
パン
B
乾燥青草
C
ナッツ
D
ニンジン
E
塩
それぞれについて、それをやることの意味、何故難しいかも含めて、次に説明していきたい。
干草を食べる馬は、それを消化するために大量の水を飲まねばならない。牧場に置かれた五十個のバケツに水を満たすのに毎日1時間かかかる。