ウニ・ウニ・ウニ
「マンマ・ミア」の映画にもこんなシーンがよくあったが、あれは殆どスタジオで撮影されたという。
翌朝は青空が広がっていた。朝食の際、レストランの窓から見える海の色も、前日までの緑色から、蒼い色に変わっている。
「せっかく太陽を求めてギリシアまで来たのだから、せめて一日くらい晴れてくれないと。」
と言うのは、僕だけではなく、全ての泊り客の思いであろう。これまで三日間、毎日十キロ、四時間は歩いていたので、天気の良い今日は休養日、午前中はドライブ、午後はプールサイドでゴロゴロという計画を立てる。
十時半に車でリゾートを出る。目的地は三本指の真ん中のシトニア半島、妻の調査によると、そこに超ポッシュでリッチな「ポート・カラス」という名前のリゾートがあるという。途中、道路沿いの展望台で車を停める。「エーゲ海ブルー」の海が広がり、向こう側には僕たちの住んでいるカサンドラ半島が見える。この海の色を見るだけでもギリシアに来る価値があるというもの。
ポート・カラスの手前の、ネオス・マルマラスという街で車を停める。湾を挟んで反対側を見ると、なるほど、高級そうなホテルが見える。僕たちは「勇躍」そこまで行ってみる。国道から入ると、「カジノ」とか「ゴルフ場」の看板が見え、各国の国旗の並んだアプローチがある。そして、その奥の立派なゲートは・・・やはり閉まっていた。ここも冬季休業。
「やっぱり、僕たちが今年最後の観光客なんや。」
と妻と顔を見合わせる。
仕方なく、ネオス・マルマラスの町に戻り、車を停め、街の中を散歩する。殆どのレストランや店が閉まっているものの、これまで訪れた町や村の中で、最も「活気のある」、「人間の営みが感じられる」場所であった。時々開いているカフェには、人が腰掛け、朝ごはんを食べているし、町外れの坂道では露店のマーケットが開き、野菜や果物、肉、魚、衣料品などを売っている。ここは典型的なエーゲ海岸の田舎町。今まで、こんな街を何箇所見たか分からない。港があり、海沿いにプロムナードがある。それに沿って、魚料理レストラン屋、カフェ、土産物屋がある。背後には傾斜した土地に張り付くように家が建っている。そんな光景を見過ぎるほど見て、さすがの僕もどこがどこだったか、分からなくなってきている。
海の水はあくまで透き通っている。
「底まで見えるね。」
と妻がいう。
「え、どこまで見えるの?」
「だから底まで。」
「『そこ』ってどこ?」
という不毛の会話をしていると、岸のすぐ近くまで、白っぽい岩の上に、「隣のトトロ」の「まっくろくろすけ」みたいな黒い物が無数いるのが見えた。
「これ、全部ウニやでウニ、食べたい、もったいない。」
とウニとイクラに目がない僕が叫ぶ。転がっているウニを五十個くらい拾い集め、ゴリゴリとフタを開けて、中の卵巣をスプーンですくって、炊き立ての飯の上に山盛り乗せて、醤油をかけて食べたら、美味しいだろうな。次回ここへ来るときは、是非「銛」(もり)を持ってこなきゃ。
ウニでっせ、ウニ。ギリシアの人は誰も食べないので、採り放題。