麻薬捜査犬

ヨットハーバーには高価そうなヨットやモーターボートがずらり。

 

朝食の席でお隣のドイツ人の夫妻は、先週から滞在しているとのこと。

「ずっと、こんなに寒いんですか。」

と聞いてみる。

「三日前に、嵐のような天気の日があったんですよ。大雨で、ホテルの中も水浸しになってね。その後急に寒くなったの。その前は天気も良く暖かかったんですけどね。」

という返事だった。ギリシアも、南の方の島々はまだ暖かいのだろうが、ここはギリシアでも北の端である。

そんな会話の横で、妻は昼食用にと余分に取ってきたロールパンとハムとチーズをハンドバッグに詰めるのに余念がない。このリゾートで、僕たちは、「ハーフボード」、つまり「二食付き」で泊まっていた。僕たちは「朝食」と「夕食」を選択した。昼食は、朝食の際、パンやハムを「くすねて」間に合わそうという魂胆である。

 レストランから外に出ると、犬が一匹いた。人に慣れていて、僕たちに寄って来る。妻も僕も犬が好きなので相手をする。その犬は、妻のハンドバッグに興味を示し、しきりにバッグをクンクンと嗅いでいる。(妻のバッグにはハムとチーズが入っているので、当然のことなのだが。)

「分かった。」

「何が?」

「空港に麻薬捜査犬がいるやろ。クンクン嗅ぎ回って麻薬を見つけるの。この犬は『くすね食料捜査犬』なんや。食料をくすねて行った客を見つけるの。これであんたはこのホテルのブラックリストに載った。」

「まさか。」

 朝食の後、僕たちはトレッキングに出ることにした。このリゾートから出来るトレッキングのコースはふたつ。海岸沿いを北へ上って、自然保護地区、バード・サンクチュアリー(鳥の楽園)を訪れるコース、それと南に下がって海岸沿いに岬めぐりをするコースである。今日は、北の自然保護地区のトレッキングをすることにした。出発点は、岬の先端にある「サニ・リゾート・ホテル」である。僕たちは、砂浜をホテルに向かって歩き始めた。ホテルの向こうのトレッキングの出発点に着くまでに、ちょうど三十分かかった。これでも、僕らの滞在した「サニ・リゾート」がいかに広いか分かっていただけると思う。敷地を端から端まで歩くのに三十分かかるのである。

 途中で、円形のマリーナ、ヨットハーバーがあった。一隻ン億円するようなヨットや、クルーズボートが並んでいる。

「ヨットもええなあ。誕生日にこんなやつ一隻買うてくれる。」

と妻と聞いてみるが、無視された。こんなヨットを持てる人は、朝飯をタッパーウェアに入れて、弁当を作ったりしないよね。

マリーナを囲んで、レストラン、カフェや高級ブティックが並んでいる。その他、映画館、何面ものテニスコート、マリンスポーツやスキューバダイビング・センター。

「ポッシュなリゾートやね。」

夏の間はお金持ちでにぎわうのだろうが、今はどこもひっそりとしている。

 

トレッキングの途中、林の中で羊飼いに会う。

 

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