ラジオジムナスティク・ア・ダンケルク
港の入口に立つ、古い灯台。
「ラジオ体操第一〜、チャンチャカチャカチャカ、チャンチャカチャカチャカ、チャカチャカチャカチャカ、チャカチャカチャ〜〜ン、最初は背伸びの運動〜」
ダンケルクの仕事場、僕たちの一日はラジオ体操で始まる。先程も述べたが、僕の顧客は、日系の大型特殊車両のメーカー。つまり、工場なのである。それで、「日本の工場」の常として、朝はラジオ体操から始まる。僕が昔、富山県にあるファスナーメーカーの工場で働いていたときもそうだった。ここはフランスであるので、従業員の大部分はフランス人である。そして、何十人というフランス人の同僚も、ちゃんとラジオ体操を覚えて一緒にやっている。
僕は大学の頃、陸上部の駅伝チームにいた。よく「OO青年の家」などという研修施設などを借りて合宿練習をやった。そのときも毎朝ラジオ体操があった。研修施設には「株式会社XX、新入社員研修御一行」なんて人たちもいる。ラジオ体操のとき、いつも、
「金沢大学の陸上部の皆さん、前で模範をお願いします。」
と言うことになり、ラジオ体操の「模範演技」をやらされた。それだけに僕には「正しいラジオ体操」が身に付いている。ダンケルクでの最初に朝、英国人のBさんに、
「モトほど楽しそうにラジオ体操する人間を、オレは始めて見た。」
と言われた。
余談になるが、僕は、長い間ラジオ体操は夏のものだと思っていた。小学生の頃、夏休みの間は、近くの公園へ、六時半から始まるラジオ体操に行った。去年の年末に京都に帰った時、朝六時過ぎ、鴨川の畔を散歩していると、まだ真っ暗な中、川原に十数人の人たちが集まっていた。数台のラジオが並んでいる。そのうち、その人たちはラジオ体操を始めた。
「冬でもラジオ体操をしてるんだ。」
僕はそのとき初めて知った。
でも、ラジオ体操って、とても良い習慣だと思う。その後、身体がすっきりし、
「さあ、仕事をするぞ。」
という気になる。ヨーロッパの冬の夜明けは遅い。僕たちのプロジェクトもソフトウェアの開発は英国でやっていたが、今年に入り、導入が始まった二月ごろからは、ほぼ二週間に一度、現地を訪れることになった。二月だと、まだ真っ暗な中を出社し、仕事を始めねばならない。どうしても、「やる気」に欠けるのだが、ラジオ体操はその「やる気」を呼び起こしてくれる。
ちなみに、一緒に英国から出張していた、若いプログラマーのNさんに、ラジオ体操についての意見を聞いてみた。彼は、これまで工場で働いたことがないので、ラジオ体操の経験はないと思う。
「私、ラジオ体操を過小評価してました。」
彼は言った。
「ラジオ体操って日本が世界に誇ってよいものだと思います。本当に身体がシャキッとします。」
なるほど、「世界に誇る日本の文化」というわけだ。
「英国に戻っても、職場で、自分独りでもやってみようかと思ってます。」
ラジオ体操のファンがまたひとり増えたわけである。今度彼に会ったら、職場で、ひとりでラジオ体操をしているか聞いてみようと思う。
町の外には、広くて長い砂浜が広がっている。何十万人もの兵士が集結するには絶好の場所だ。